強制わいせつ、レイプなど、女性や子どもを狙った性犯罪事件が後を絶たない。しかも欧米に比べて、日本は性犯罪者に対する処置が不十分だという。被害者学、犯罪学、刑事法学が専門で、元常磐大学学長の諸澤英道氏に詳しい話を聞いた。(清談社 福田晃広)

加害者ばかりに目を向け
被害者の人権を無視した歴史

再犯率が高いとされる性犯罪者の出所後の対策は、国によってさまざまです。性犯罪前歴者の情報を国民に提示している欧米諸国に比べると、日本の対策は非常に甘い。性犯罪は再犯率が高く、このままでは問題が大きい Photo:PIXTA

 再犯率が高い性犯罪。その対策を着々と進めてきた多くの欧米諸国では、性犯罪前歴者の情報を国が管理し、国民に情報を開示している。一方、日本では犯罪者の人権の観点からの反発も強く、被害防止の取り組みが遅れているのが現状だ。

 犯罪を分析する学問である「犯罪学」の歴史をひもとくと、世界的にも、長い間、加害者側の人権にしか配慮してこなかったと、諸澤氏は指摘する。

「実は犯罪学では、『犯罪という現象を犯罪者側から見る』ことが前提。国も犯罪者をどう扱うかに関心が集中し、その結果、被害者がおざなりになっていました。1960年代に入って、ようやく被害者の人権にも目が向けられるようになり、1985年の国連犯罪防止会議において、『被害者人権宣言』が採択されました。それ以降、国連加盟国は被害者の権利や支援を規定する国内法整備が義務づけられたのです」(諸澤氏、以下同)

 当時日本も国連会議に数多くの代表団を送り、賛成した。ところが実際に犯罪被害者等基本法が成立したのは2004年。国連の採決から約20年もたっている。日本は諸外国と比べて、明らかに対応が遅いのは事実なのだ。

 法務省は2006年から、性犯罪者を更正させるため、認知心理学に基づいた「性犯罪処遇プログラム」を始めたが、思ったほどの成果が上がらなかったと、諸澤氏は言う。

「まったく効果がないとはいえませんが、性犯罪は常習性がある上、高年齢化するにつれて、行動を改めさせることは非常に困難なのです」