――約9000万円の債務の解消に関しては、「経営者保証に関するガイドライン」※を適用する方向で会社の清算を進めることになりました。
会社を畳むかもしれないとなったときに、弁護士の先生に相談しにいきました。その際に会社を畳むには大きく分けて、清算と破産という方法があると聞きました。会社の借金には代表者保証を付けていたので、私がその借金を背負うことになります。
借りたお金はもう一度事業をやって返すつもりではいましたが、現実問題としてなかなか大変なことではありました。一方で、退店にかかる費用などが見えてくると、会社には1000万円超の現金が残る見込みであることが分かりました。そうした中で、弁護士の先生から負債に対して5%以上の現金を残せるのであれば、「経営者保証に関するガイドライン」という制度を利用して、連帯保証が解除できる可能性があることを聞きました。
※参考:中小企業庁「経営者保証に関するガイドライン」
――この選択を今振り返るといかがですか。
私としては、よかったかな……と前向きにとらえています。国がセーフティーネットとして用意している制度なので、利用できるのであればそこは使うべきかな、と思っています。ただ、自分はそう思っていたとしても、世間からは「金を返さないなんてどういうことだ」「人間としてどうなんだ」みたいなこともやっぱり言われました。そう思うよな、という気持ちもあります……。
この経験をして改めて思うのは、借金の整理の考え方としても、経済的な側面と倫理的な側面があるということ。経済としては制度の中で、銀行がこの人から回収できるだろうと思ってお金を貸す。そして、その成否があるということなんだと思いますが、倫理的な側面で見ると、借りた金は返すべきです。その両面をそれぞれ分けて考えられるようになった気がします。
制度的にどうかというところと、「人間としてどうなんだ」というところを混ぜて考えてしまうと、苦しくなってしまうんだと思います。
今改めて廃業の決断を
どう振り返るか
――2020年、コロナの影響は年末まで続きました。今の状況を踏まえて、改めて廃業の決断をどう振り返りますか。
正直なところ、やはりやめる選択をしてよかったなと思います。
コロナ禍においては、どうしても感染者数やマスコミの報道、政府の対応といった自分のコントロールできないところで人の動きがすごく変わります。もし事業を続けていたら、お店の数字も不安定で経営が難しい状況であったことが想像できます。加えて、そういう状況で経営をしなければならないとなると、精神的な部分でも厳しかったと思います。そういった部分を考えると、あのときに決断してよかったなというのが率直な思いです。
一方で、従業員を解雇しなければならなかったことは、私の中で心残りです。仕事が好きだと言ってくれていた人たちがいましたから。できるなら解雇したくなかったという気持ちは大前提としてあります。