慰安婦像Photo:EPA=JIJI

「主権免除」の国際法が
またしても無視された

 ソウル中央地裁は1月8日、故ペ・チュンヒさんら元慰安婦12人が日本政府を相手に起こした損害賠償訴訟で、原告1人あたり1億ウオン(約950万円)の支払いを命じる判決を出した。

 これに対し、加藤官房長官は会見で「極めて遺憾だ。断じて受け入れることはできない」とし「韓国が国家として国際法違反を是正するために適切な措置を講ずることを強く求める」と語った。

 さらに加藤長官は「国際法上の『主権免除』(注)の原則から日本政府が韓国側の裁判権に服することは認められないという立場であり、控訴する考えはない」とも述べた。日本政府の立場は訴訟そのものが却下されるべきということである。

(注)主権免除は19世紀に確立した国際慣習法の一つであり、「国際民事訴訟において被告が国または下部の行政組織の場合、外国の裁判権が免除される」というものである。その考えのベースにあるのが、主権平等の原則のもと、ある主権国家が他の主権国家に裁かれることはない、ということである。この慣習法は2004年に「国家及び国家財産の裁判権免除に関する条約」に発展した。

 このような、国際法に反する判決を出すとは韓国の有識者も予想していなかったようである。

 この判決の結果、原告が資産の差し押さえを求め、裁判所がそれを認めて執行することになれば、本当に困るのは韓国政府である。日本政府はこの判決を受け入れることはしない。上級裁判所への控訴もしない。その結果判決は確定する。しかし、韓国の裁判所が日本の資産の差し押さえを認めれば、日本政府は当然対抗措置を取るだろうし、日韓関係は極度に悪化するだろう。

 これを止めることができるのは韓国政府だけだが、韓国政府は慰安婦支援団体との板挟みとなって動きが取れない状況だ。おそらく何もせずに状況が悪化するのを眺めるだけであろう。そうした状況で最も損をするのは韓国政府である。

 元徴用工訴訟の時と同様、韓国政府は、裁判の結果に関与できないというであろうが、裁判が行われている過程で、「日本国政府には主権免除があり、訴訟そのものが却下されるべきだ」ということを裁判所にきちんと説明すれば、このような結果とはならなかったのではないか。