スーパーとの直接取引で、利益が大きく増えたわけではない。時期によっては、市場に出していた方が得であったときすらある。しかし、直取引の最大のメリットは一年を通して安定した売上げが確保できることだ。これで経営を安定させることができる。

◇ブランド化で単価をアップ

 スーパーとの直取引で売上げを安定させた後は、ネギの単価を上げることに取り組み始める。ネギを育てるためにかかる経費は年々上昇しているが、小売価格だけが20年ほど変わっていなかったのだ。これでは農家はやっていけない。

 最初はスーパーで3本98円で売っていたネギを、3本158円、3本198円と上げていく。さらに、スーパーと交渉して束ねる数だけを変え、2本で198円にまで価格を上げることができた。しかし、そこからさらに値段を上げることはなかなかできなかった。庶民的な野菜であるネギに、それ以上の価格をつける理解が得られなかったのだ。

 そこで考えたのが、ネギのブランド化だった。農業開始から4年目に、あるバイヤーから「このネギおいしいからお歳暮で送ってもらえない?」と言われたことから、特別おいしく立派なネギを、贈答用の高級品として売り出すことを思いつく。

 翌年には8本1万円の贈答用ネギ、「真の葱」の販売を開始する。年30セット限定のこの商品は、毎年売り切れるほど好評になった。1年間に200万本も出荷する著者の畑の中からは、ビックリするほどの太さで見た目も良く、味もこの上なくおいしい「芸術品」と呼ぶべきネギが生まれてくることがある。著者はこれに「モナリザ」と名付け、1本1万円という最上級の値段設定で2019年に予約注文を開始した。しかし、台風の影響で初年度は「モナリザ」が生まれず、注文をキャンセルせざるを得なかった。翌年には無事モナリザが生まれ、完売に成功している。

「真の葱」の販売開始後には、2本298円で売ってくれる東京のスーパーが登場した。モナリザの発表後には2本398円、498円という店も出てきた。「真の葱」や「モナリザ」によって、ねぎびとカンパニーはブランド化に成功し、普及版のネギの単価をも上昇させることができた。「あの高級ネギを売っているところだったら、普及版のネギもきっとおいしいに違いない。ちょっと高くても買ってみよう」と思ってもらえるからだ。たった数本の超高級ネギが、残りの200万本の単価を引き上げたのである。