長ネギ1年間に200万本も出荷する著者の畑の中からは、ビックリするほどの太さで見た目も良く、味もこの上なくおいしい「芸術品」と呼ぶべきネギが生まれてくることがある。著者はこれに「モナリザ」と名付けた(写真はイメージです) Photo:PIXTA

レビュー

 1本1万円のネギが売れている。驚かれるかもしれないが、これは事実だ。この高級ネギを企画し、売り出したのが、本書『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』の著者である清水寅氏だ。

『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』書影『なぜネギ1本が1万円で売れるのか?』 清水 寅著 講談社刊 880円+税

 著者は、金融系の会社に就職後、20代で7社の社長を歴任し、脱サラしてネギ農家に転身した。2014年にはねぎびとカンパニー株式会社を設立し、1本1万円のネギを栽培するまでに至る。そんな著者のこれまでの軌跡を描いている本書の与えてくれる視点は、農業の枠だけにとどまらない。スポーツ少年だった著者が就職し、脱サラして就農する過程は刺激的だ。こだわりのネギ栽培について、苗の育成から出荷までの工程が詳細に解説されており、農業経験がない人にも「こんなにも手をかけて育てているのか」という驚きがあるに違いない。1万円のネギを売り出すためのマーケティングの視点、ブランド化の戦略についても興味深い。組織を牽引する著者の、生産性向上のための施策や、2019年に山形県ベストアグリ賞・農林水産大臣賞を受賞した「従業員が生き生きと働く仕組み作り」は組織経営の観点でも参考になることだろう。

 様々な視点から新しい取り組みを続ける著者の成功の秘訣をあえて絞るとすれば、「鋭い洞察力」と「人一倍の努力」になるのではないだろうか。それまでの当たり前を疑い、ネギが本当に元気に育つ環境を考え抜き、様々な物事の本質を鋭い洞察力によって見極め、そこに人一倍のリソースをつぎ込んでいく。そのような著者の仕事に対する真摯な姿勢は、業種を超えて、広くビジネスパーソンに気づきを与えてくれるだろう。(Kamijo)