「高機能・低価格」という4000億円の空白市場を開拓し、10期連続最高益。ついに国内店舗数ではユニクロを抜いたワークマン。12/28「日経MJ」では「2020ヒット商品番付(ファッション編)」で「横綱」にランクインした。
急成長の仕掛け人・ワークマンの土屋哲雄専務の経営理論とノウハウがすべて詰め込まれた白熱の処女作『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』が発売たちまち4刷。
『ユニクロ』にも『しまむら』にもない勝ちパターンを発見した」(早大・内田和成教授)
ワークマンの戦略は世紀の傑作。これほどしびれる戦略はない」(一橋大・楠木建教授)
縄文×弥生のイノベーションは実に読みごたえがある」(BCGシニア アドバイザー・御立尚資氏)
めちゃめちゃ面白い! 頑張らないワークマンは驚異の脱力系企業だ」(早大・入山章栄教授)
など経営学の論客が次々絶賛。10/26、12/7、2/1に日経新聞に掲載され話題となっている。
このたび土屋氏と早稲田大学ビジネススクールの内田和成教授が初対談(全10回)。非常に面白い対談になったのでいち早くお伝えしよう(土屋哲雄の本邦初公開動画シリーズはこちら)。
(構成・橋本淳司)

「ワークマンの死角」を初図解!ワークマンの強みを一切打ち消す恐怖の一手Photo: Adobe Stock

もしもワークマンが流行を追いかける
製品づくりを始めたら

「ワークマンの死角」を初図解!ワークマンの強みを一切打ち消す恐怖の一手内田和成
早稲田大学ビジネススクール教授
東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から04年12月まで日本代表。09年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代はハイテク・情報通信業界、自動車業界幅広い業界で、全社戦略、マーケティング戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。06年4月、早稲田大学院商学研究科教授(現職)。07年4月より早稲田大学ビジネススクール教授。『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日経BP社)など著書多数。
Facebook:https://www.facebook.com/kazuchidaofficial
「ワークマンの死角」を初図解!ワークマンの強みを一切打ち消す恐怖の一手土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を『ワークマン式「しない経営」』で初めて公開。本書が初の著書。「だから、この本。」でも5回のインタビューが掲載された。

土屋哲雄(以下、土屋):ワークマンは、作業服ではおかげさまで40年間競争優位を築いています。WORKMAN Plusは、低価格な高機能ウェアを提供することを守りながら、アウトドアで1000店舗を目指しています。

「お客様の声をゆっくり聞きながら進化する」というスタンスで何十年間の競争優位をつくれないかと考えています。そうした中で私たちが心配しているのは、今後陥りやすい罠は何かということです。

内田和成(以下、内田):ワークマンの成功要因は、一つひとつの戦略パーツの整合性がとれているということです。これは何かが変わると狂ってしまいます。

土屋:はい。

内田:たとえば、ファッショナブルなウェアが大ヒットしたとします。そのとき、考え方が少し変わり、ファッショントレンドを追いかけるような製品づくりが始まったとします。一時的に売上は上がると思いますが、他の戦略との整合性がとれなくなってしまいます。

徐々にお店に流行を求める人がやってくる。そういう人たちから店員が、製品のデザインやカラーバリエーションを聞かれたり、フィッティングしたうえで別の製品を出してほしいと言われると、今までのようなシンプルなオペレーションができなくなる。お客さんも30、40分、店に滞在するので、狭い店舗ではやっていけなくなる。そうなった場合、今のように目的買いのお客が短時間でピックアップするから成り立つ仕組み、定番なので売れ残りや在庫ロスが少なくてすむという仕組みが崩れてしまい、ワークマンの強みがすべて失われることになる。

土屋:流行を追いかけると製品数も多くなりますね。

内田:WORKMAN Plusはお客さんを変えました。でも、提供する製品は変わっていないというところがミソなのです。以前「アンゾフの成長ベクトル」についてお話ししたことがあります。

世間から見る作業服屋がアウトドアウェアに進出したということで、<右下>の「飛び地」に行ったように見えますが、取り扱っているのは「既存の製品」です。低価格・高機能という自分たちの強みを活かしながら、これまでリーチできなかった新しいお客さんを取り込みました。

土屋:はい。

内田:そのとき「作業服屋」とドメインを定義していたら、ドメインからずれます。

そこで高機能ウェアを提供すると定義すれば、アウトドア派やバイクライダーなどに提供してもずれません。そこはすごく理にかなっています。

こうして考えると、変えた部分が少ないことが成功要因です。逆に新規顧客が求める新規製品を提供しようとすると、ドメインがずれる可能性が高い。あくまでも作業者向けの製品の中で、一般客のニーズに応えるという路線がいい。女性客の心をつかんだので、女性客が求めるハンドバッグをやろうなどと考えると絶対おかしなことになります。

土屋:今の原則から外れて自滅をしないように気をつけなさいということですね。