お金の抜き取り写真はイメージです Photo:PIXTA

フィンテックの隆盛が目覚ましく進む中、金融機関では今なお多額の現金を扱う現場がある。一部のよからぬ銀行員が、実に古典的な手法で着服に手を染める余地は今なお残っている。(信金中央金庫 佐々木城夛)

フィンテック隆盛の裏で消えない着服
アナログ現金管理に潜む死角とは

 新聞の社会面や経済面のページの下の方には、銀行などの金融機関に勤務している人たちによる犯罪や事故などが、時折ベタ記事で報じられます。これらにまつわる手口は非常に多岐にわたるのですが、比較的高い頻度で見られる手口の一つに、「店舗に格納されている現金を抜き取る」形の着服があります。

「フィンテック」という言葉が一般的に浸透し、技術革新が目覚ましく進んでいる中で、かねて見られる原始的な(?)犯罪がなお断続的に発生する実情には、時に異様な印象を受けられることでしょう。背景には、複数の要因が存在し、互いに関わり合っているのですが、今回は、銀行などの店舗の中で着服などが起きる要因を中心に解説してみたいと思います。

 現金のやり取りには、金融機関などのお金を扱う側の事業者だけでなく、お客様にも正確に入金するための勘定など相応のご負担をお願いすることになります。

 そのため、エンドユーザー向けに商品・サービスを提供する事業者の一部には、こうした負担をできるだけ軽減すべく、内部で金額を精査して確定させる前の現金を金融機関側に渡してから、後で口座への入金を希望するケースがあります。表立ってこうした取扱いを行っていることを開示しているとは限りません。これは、金融機関側が精査した金額をもって確定させる「あるだけ入金」と呼ばれる形態です。

 あるだけ入金は、パチンコ・パチスロ店、ゲームセンター、自動販売機ベンダー、青果・鮮魚店など、多量の硬貨を扱う業種のうち、中堅・中小規模の事業者から依頼されることが多いという特徴があります。

金融機関側の「言い値」が通る念書を取る
入金額が曖昧でも許される仕組み

 元々は信用金庫や信用組合といった地域の中小金融機関の渉外担当者が、大きな黒いかばんを持って、顧客先を訪れて売上金などを毎日のように集金していた時の名残が、そのまま残った形です。元々金額が曖昧なため、もし渉外担当者に悪意がある場合、その一部を着服しても見つかりにくく、もしバレても、お金の一部を「盗んだ」「盗んでいない」の水掛け論に持ち込むことができます。

「あるだけ入金」の他にも、金融機関には、営業時間外の店舗で、お客様が現金を預けたいという要請に応じる夜間金庫や、鍵の付いた専用のかばんに入った現金をそのまま受け取る「無鑑査集金」などのサービスがあります。

 いずれも売上金などの入金を希望する事業者向けのサービスで、お客様側が現金の金額を数え、伝票に記入し、封筒に入れてもらった上で預かる仕組みです。

 こうしたサービスでも、互いが見ているところで現金をやり取りするわけではないので、実際に持ち込まれた現金と伝票に記入された金額に差異が生じるケースがあります。金融機関ではこれを「違算」と言います。

 ですので、事前に金融機関側が精査し、確定させた金額に従うという念書をお客様に出していただくようにしています。

 もちろん、集めたお金の額は計数機などで厳密に精査し確定することとなっていますが、誰も見ていなければ、ごく一部のよからぬ銀行員の裁量が働く余地が残ります。

 よって金融機関側には、着服によって違算が生じても、最終的には顧客側の誤りとしてかぶらせればよいという甘えた動機をもたらすことになります。