乱立するフレームワーク
その統合に向けた動き
多様なステークホルダーから信頼を集め、投資家のニーズに応えるためには、ESG情報の開示が欠かせないことは理解できました。一方で、さまざまな機関が独自の開示フレームワークを発表する現状に現場は混乱し、「開示疲れ」といった言葉まで聞かれます。大きな流れを見失わないためには、何に注目しておけばいいでしょうか。
園田:GRI、CDP、CDSB、ISO、IIRC、TCFD、SASB……。これらは全部ESG情報開示フレームワークを発表したり、提言を行っている組織です(図表「乱立するESG情報開示のフレームワーク」を参照)。アルファベットがずらっと並んでいるので“アルファベットスープ”とも呼ばれますが、これでは開示する側もどれを使えばいいのかわからないし、利用する側も企業間の比較ができません。
こうした事態を解消しようという動きも出てきています。たとえば国際会計基準(IFRS)の設定主体であるIFRS財団は、昨年9月に基準統一に向けた新組織を設立するとの文書を発表しました。こう聞くと、また一つ基準が増えるだけのように思えますが、その目的は乱立するフレームワークを統合する手助けをしようというものです。また昨年11月には、有力なESG情報開示基準策定団体であるIIRCとSASBが、今年半ばまでに組織合併を行うことを公表しています。このように、ある程度はフレームワークを統合して比較可能性や使い勝手のいいものにしようという動きが、活発化しています。
関口:企業の開示担当者は、投資家や格付け機関などからあれを出せこれを出せと迫られるし、開示内容によっては格付けが引き下げられるおそれもあるので大変です。せめて、どういう情報が本当に必要なのかという目線くらいは揃えないとやっていられない、というのが正直なところではないでしょうか。
我々も監査法人として、またESGに関するアドバイザリーサービスを提供する立場として、こうした現状をよしとはしていません。昨年秋に世界経済フォーラムが発表した「ステークホルダー資本主義の測定指標」は、デロイト、EY、KPMG、PwCの4大監査法人が中心になってまとめた、地域や業種を問わずに適用可能なESG報告のガイドラインです。普段はしのぎを削るビッグ4が足並みを揃えたことが驚きをもって迎えられましたが、行きすぎた株主資本主義に反対する姿勢を打ち出し、持続可能な価値創造を推し進めるための共通指標をつくるという、大きな目的に向けて協力して取り組むのは当然です。
園田:この領域はこれまで主にヨーロッパが牽引してきましたが、アメリカの民主党政権の誕生により、非財務情報をめぐる世界の情勢は大きく変わるはずです。
意外に感じるかもしれませんが、世界ではアジアを代表する環境先進国は中国だと思われています。現に、IFRS財団が出したサステナビリティ報告書でも、検討に際して財団に助言したメンバーとして、ヨーロッパと並んで中国の名前が挙がっています。これに対して日本の評価は、残念ながらそれほど高くありません。これが実態を表しているとは私も思いませんが、プレゼンスを高めるためには、日本もフレームワークづくりへの参加や、企業による積極的な開示を通して、存在感を高めていくことが期待されます。