「価値創造のメカニズム」を
どのように物語るか

 フレームワークの統合にはもうしばらく時間がかかりそうです。どのような姿勢で、目下の開示に取り組めばいいのでしょうか。

関口ESG情報だけに囚われず、もう少し大きな視点で企業報告の全体像をとらえることが必要だと思います。その中で非財務情報開示において求められるのは、「あなたの会社の価値創造のメカニズムを説明してください」という、ごくシンプルなことです。

 ミッションがあり、経営戦略があり、それを実現するためにどのようなビジネスモデルを設計したのか。それに伴うリスクは何か。また、そのビジネスモデルに従った結果の業績を振り返ると、どのような分析ができるのか。そういったことを、それぞれの企業が経営者の視点で認識し、みずからの言葉で語る必要があります。

 ここで意識すべきは、誰をオーディエンスと考えるかです。投資家であれば、価値創造のメカニズムをより詳細に伝えることに重きを置くべきでしょう。顧客や地域社会であれば、また違った視点が求められます。ただし、自社のあり方やビジネスのあり方を広く物語るという点では変わりません。

園田仮に今後フレームワークが統一されたとしても、すべての企業に当てはまる正解ができるわけではありません。フレームワークを参考に経営者自身が判断して、自社にとって本当に重要な情報を開示していくことが重要です。したがってESGはもちろん重要ですが、フレームワークに合わせた開示さえしていれば企業としての責任を果たしたことにはならないことも理解しておくべきでしょう。

 とはいえ、何をどのように示せばいいのかわからないという声もいただきますので、金融庁では「記述情報の開示の好事例集」を毎年公表しています。そういったものを参考にしていただくのも一つの方法かと思います。

 金融庁が優れていると判断した事例を集めたものですね。

園田はい。投資家などから推薦を受けて、選んでいます。昨年11月には、初めてESGの開示例を取りまとめた事例集も公表しました。評価が高いのは、自分たちのビジネスがどういうものか、どんな情報が投資家にとって重要なのかを理解したうえで、きちんとしたプリンシプルとポリシーを持って対応している事例です。

 そもそも非財務情報は文章が主なので、数字中心の財務情報より比較可能性が低いのは否定できませんが、その中でもESGなどに関連する自社の取り組みをある程度数値化して示そうと努力している企業は、特に投資家から高く評価されています。

 すべての会社に共通するKPI(重要業績評価指標)のようなものがありうるのか、現時点ではわかりませんが、少なくとも自社の特徴、ビジネスの特徴というのをきちんと踏まえたうえで、自社としてこういう数字を出すのが読み手にとって有益だと考えて、独自のKPIを設定することはできるはずです。

関口熱心に取り組んでいるかどうかは、見ればすぐにわかります。読み手に伝えようという意思があれば、自然といろいろな工夫が出てくるはずで、数字もその一つでしょう。

 ただし、担当者に任せ切りだとそうした工夫はなかなか出てきません。間違いがないことが第一で、去年のものをベースに必要な箇所だけ更新することになりがち。だからこそトップのコミットメントが不可欠です。ステークホルダーに何を伝え、どのようにコミュニケーションしていくのかを、経営者みずからがしっかりと示すことが重要なのです。