コロナで高まる
SとGの存在感 

 感染症の拡大という非財務的リスクが、わずか数カ月先の企業価値を予測不能にして、企業の存続さえも脅かすことを、私たちは目の当たりにしました。気候変動への危機感や、ショートターミズムへの反省に始まった、短期から長期へ、足元の業績から将来の企業価値へという流れが、コロナ禍を機に一気に加速しているように見えます。

園田コロナ以前と以降では、経済社会構造が変わった、もしくは変わりつつあると言っていいでしょう。世界的にデジタライゼーションが加速することは必至で、多くの企業が転換点を迎えているのは確かです。また、デジタライゼーションによって、ガバナンスの形も大きく変化していくかもしれません。

関口開示について言えば、今回のコロナ禍では、S(社会)に対する姿勢を積極的に示す企業が目立ちました。雇用を維持し、従業員の健康と安全を確保したうえで、社会が必要とする製品やサービスをしっかりと提供すると、多くの経営者がいち早く表明しました。

 また、機関投資家団体のICGNが、長期的な視点に立って、従業員や社会に対する責任を優先した意思決定を促す声明を2020年4月の時点で発表するなど、投資家サイドの動きも早かったように思います。

 これまではESGといっても圧倒的にE(環境)が注目されてきましたが、今後はS(社会)とG(ガバナンス)の存在感が高まっていくはずです。公衆衛生と経済の重大な危機に際してどのような企業行動を取るのか。不確実性が高まる中、正解のない決断を誰がどのように下して、経営変革を進めていくのか。Eに加えて、SとGについても、しっかりと発信していくことが求められています。

 コロナ禍で社会のさまざまな歪みが浮き彫りになる中で、世界経済フォーラムは今年(2021年)のダボス会議のテーマを「グレート・リセット」としました。現状に合わない制度やアイデアを刷新し、よりよい未来のための新たなシステムを構築するという意味です。企業と投資家、あるいはより幅広いステークホルダーとの関係もリセットされるのでしょうか。

園田アメリカを代表する企業が名を連ねるビジネスラウンドテーブルが、株主資本主義との決別宣言とも取れる声明を発表したのは2019年のことでした。これまでは株主ばかりを見てきたけれど、今後は顧客、従業員、サプライヤー、地域社会も含むすべてのステークホルダーを重視して、価値提供を行っていくという内容です。当たり前のことに聞こえますが、株主資本主義の本拠ともいえるアメリカの大手企業の経営者が軒並み賛同したことは大きな意味を持ちます。

 ただ、日本人にとってはけっして目新しいものではありません。何しろ18世紀には、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」の理念が謳われていた国です。その意味では、日本の経営者がシンパシーを覚える方向に世界が向かっているといえます。

関口確実に言えるのは、多様なステークホルダーの中で誰を一番重視するのか、その優先順位が変わってきたということです。株主至上主義は経営者が株主を重視しすぎたというよりも、むしろ株価だけで経営者を評価した結果もたらされた一種の歪みといえます。

 ここにもう少し別の尺度、たとえばメガトレンドに基づく長期戦略や従業員との関係などを加えて経営者を評価するようにすれば、株主だけではなく、より幅広いステークホルダーを重視した新しい資本主義に変わっていくのではないかという期待があります。