新型コロナウイルスのパンデミックが契機となり、サプライチェーンの見直しが企業経営の最優先課題の一つに浮上してきた。これと軌を一にして、開発途上国における児童労働、不平等貿易、脱炭素といったSDGs(持続可能な開発目標)の達成や、新たな地政学的リスクへの対応などもよりいっそう意識されるようになった。企業はこうした「新しい現実」を踏まえたサプライチェーン改革に取り組まなければならない。経営者のためのクイックレッスンを3人の専門家に仰ぐ。

サプライチェーン改革に
唯一の最適解はない

編集部(以下青文字):ウィズ/アフターコロナの経営を考えるうえで、サプライチェーン改革は、業種や商材、メイン市場によって正解が異なる悩ましい問題です。

KPMGコンサルティング パートナー 丸山正晃 MASAAKI MARUYAMA 1990年、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。テクノロジーグループ、戦略グループを経て、製造業・流通業の日本国内サプライチェーンマネジメントグループの責任者、およびアジア太平洋圏におけるSourcing&Procurementの責任者等を務める。2018年よりKPMGコンサルティングに参画。グローバルへの事業拡大とテクノロジーの進展を背景としたサプライチェーン改革を専門とし、近年は不確実性の拡大、デジタル・トランスフォーメーション対応を背景にサプライチェーンネットワークの最適化(税含む)、工場のデジタル化支援、製造工程設計の短期化、オペレーションのデジタル化などを提供。

丸山緊急避難的に地産地消型へとローカル化させる例もあれば、グローバル競争から逃れられないため、部分的な修正で対処している例もあります。サプライチェーン再編をHPなどで表明している企業は、自動車部品、産業機械、電子部品・デバイス、民生用機器、消費材と幅広い業界にわたりますが、ご指摘の通り、扱っている製品や主要市場によって対応は異なります。一方で現状のサプライチェーンマネジメント(SCM)を維持すると静観する企業も多いのも事実です。いつ、どこで、何が起こるかわからない時代にあっては、変化に柔軟でレジリエントなサプライチェーンが等しく求められています。

 SCMについては、たとえば中国に生産を集中させ、完成品を世界各地に出荷していく一極集中型と、部品や部材などの現地調達率を高め、北米は北米から、EU圏はEU圏から、アジア圏は日本や中国、東南アジアから出荷していく分散型が共存していました。ハイエンドで複雑なすり合わせが要求される製品や、多品種少量生産タイプの製品、主に日本でしか売れない製品などは、日本国内で生産するのが得策でしょう。いずれにしても、今後は国内回帰の動きも増えてくるでしょう。また、人命や安全保障に関わるリスクを無視できないケースでは、コストを払ってでも自国に戻すのが賢明かもしれません。

 日本の食料自給率は低いといわれていますが、価格が優先されると、自給率が上がらないように、地産地消型にローカル化しても、プレミアム価格を設定できない類いのものは、これまで通り、グローバルサプライチェーンに頼らざるをえないでしょう。

KPMG FAS 執行役員 パートナー 稲垣雅久MASAHISA INAGAKI 2017年、KPMG FASに入社。ターンアラウンド、トランスフォーメーションの専門家として、業界再編、事業再生・再成長の各種案件に従事。M&Aにおける事業やオペレーションのデューディリジェンス、買収後のバリューアップやシナジーの創出、および再生ステージにおける企業のターンアラウンド支援など、サプライチェーンをテーマとした実績多数。

稲垣グローバルサプライチェーンの場合、SDGsにもあるように、天然資源や生態系の保全、脱炭素などのサステナビリティの問題、児童労働の禁止や働く人たちの健康など人間性の尊重に関わる問題をなおざりにすることなく、むしろ前向きに対応していかなければなりません。こうした問題への対応を見誤ると、けっして大げさではなく、手痛いしっぺ返しを食らうことも十分考えられます。

 とりわけサステナビリティは焦眉の急といえます。事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指した企業が集まる「RE(Renewable Energy)100」という国際的なイニシアティブがあります。ここにはグローバルの有名・有力企業が多数加盟し、日本からも43社が参加しています(2020年12月現在)。彼らの中にはすでにサプライヤーに対して再生可能エネルギーを使うことを強く要求している企業もあります。今後、同様の動きが広がっていくことが予想され、もちろんグローバルサプライチェーンに大きな影響を及ぼします。

 また、最近物議を醸している「国境炭素税」の問題もあります。これはCO2排出量の多い輸入品に課せられる税金で、EUによって打ち出されました。まだ構想の段階とはいえ、早晩導入される可能性は高いといわれています。一方で、排出量取引も価格が高騰しており、脱CO2はSCMの大きな変数になりつつあります。加えて、地政学的リスク、たとえばアメリカのみならずインドやオーストラリアなどと中国との軋轢、ロシアの動向、ASEANの二極化、Brexitに端を発するEU内での足並みの乱れ、自国主義や大衆迎合主義の台頭など、政治的、軍事的、社会的な緊張が高まっています。

 かつては効率性が何より重視され、他国企業の力を借りてオフショア化し、一気通貫のグローバルサプライチェーンを構築することが是とされてきました。ところが、今回の新型コロナウイルスのパンデミックによって、グローバルからローカルへ、ボーダーレスからボーダーフルへ、そして全体最適から局地最適へ、効率性から継続性へと振れています。丸山が指摘した通り、このような二元論を超えた、自社にふさわしいSCMの形があるはずで、いままさにその検討に取り組むことが重要です。