サプライチェーン改革の
リーダーシップ

 自社にふさわしいサプライチェーンに改革するために、リーダーが押さえておかなければならないポイントは何でしょうか。

丸山これまで申し上げたことを整理しますと、ニューノーマル時代のサプライチェーン改革のポイントは3つです。

 第1に、シナリオプランニングによって、さまざまな変数を考慮に入れた、複数のシナリオを用意する。第2は、数理モデルを作成し、拠点や移動経路の変更に伴う、たとえば調達、生産、在庫、輸送にかかるコスト、関税、顧客サービスの水準といった重要な要素間に生じるトレードオフの定量化、B/Sへの影響などを含めて各シナリオをシミュレーションする。そして最後が、税コストを考慮した財務会計上の利益配分について考える。

 言うは易しですが、不確実性が高く、ボラティリティが大きな事業環境にあって、柔軟かつ強靭なサプライチェーンへと改革するには、これら3つは、一つ欠けてもうまくいきません。ですから、当該の事業部だけに任せるのではなく、本社部門の協力や後押しが欠かせません。それは、リーダーのコミットメントが成否を左右するということです。

 単一事業の場合は違いますが、年商5000億円以上の日系コングロマリットの中で、自社のグローバルサプライチェーンの状況をリアルタイムかつ定量的に把握できているところは稀でしょう。複数事業を抱えている総合電機メーカーや総合化学会社などは、製品事業部門や地域事業部門に任せてしまっているため、本社部門が把握できていません。

 グループ経営と同じく、グローバルサプライチェーンについても、本社部門が果たすべき役割は極めて大きい。収益やコストを管理するだけでなく、各事業部のサプライチェーンにどのような問題や非効率性があるのか、サステナビリティや税務の観点からどのようなリスクがあるのかなどを率先して把握していくべきです。

 グループ経営では、事業部門が直面している課題や気づいていない問題に対してアドバイスやコンサルティングを提供する「本社部門によるペアレンティング」が重要だといわれてきました。グローバルかつ複数部門にまたがるサプライチェーンも、同様に考えるべきではないですか。
 

神津本社部門がSCMに関わることで、問題やその解決策、税務対策など、各国や各地域に散らばっている実践知を集約して、グループ内で共有できるばかりか、おっしゃるように、本社部門が各事業部門や現地法人などにアドバイスやコンサルティングを提供することも可能になります。

 こうした強い本社部門をつくるには、組織体制の整備や人材の育成がもちろん必要ですが、グローバルサプライチェーンは広範かつ複雑なシステムですから、自前主義ではどうしても漏れや抜けが生じやすい。外部の力を借りながら取り組んでいくのが現実的です。そして、M&Aや脱CO2経営への転換など大きな経営判断をはじめ、政治的な問題も絡んできますから、トップマネジメントのリーダーシップなくしてサプライチェーン改革の成功は考えられません。

企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部