地元との接点を多く
こうした一連の取り組みのきっかけをつくり、その後も中心になって進めているキーパーソンが、鈴木円香さんである。鈴木さんは女性向け情報サイト「ウートピ」の編集長として企業のメディア運営やブランディングに関するコンサルティングも手がける。ワーケーションプログラムの企画を市に持ちかけ運営に携わった。

「ワーケーションというとハード先行の地域も多いですが、働く場所が都会の箱から地方の箱へ移るだけでは意味がないと思ったんです。東京からと考えると、伊豆や軽井沢などに比べて五島は遠いので、そこでしかできない体験や人との出会いがないと意味がないと考えました」
参加者が五島に滞在する間、部屋にこもるのではなく、地元の人たちと接点を持ち多くの出会いをつくることができるか。鈴木さんたちの企画にはそのための仕組みや細かい工夫が数多く盛り込まれている。
前述の保育園や小学校への一時入学、体験入学もその一つだ。また滞在中、数回にわたり開催されたのが地元の人たちを交えてのポットラックパーティー。一度目は富江地区の私設図書室「さんごさん」を会場とし、二度目は他の地区にも会場を複数設けて持ち寄りの会を行った。毎回40~50人集まる中で、3分の2は地元の人。みな自家栽培の果物や料理を持参するなど島の産品が並んだ。さんごさんの管理人・大島健太さんは「普段出会わないような人と出会って話せる、島では滅多にない面白い場だったように思います」と話していた。「リモートワーク実証実験」「五島ワーケーション・チャレンジ」の両期間中この交流会は、週1回のペースで開催され、毎回満員となった。
さらにワーケーション・チャレンジでは地域の人と参加者をつなぐ役割として「コネクター」と呼ばれる地元スタッフに参画してもらったり、滞在費の中にタクシーチケットをインクルードして配るなど、地元の人との接点を増やすように配慮されている。地域と参加者の間で化学反応が起きるような場づくりがされ、その後の関係を強いものにしているのだ。