『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
『~大全』というタイトルがここ数年で流行ってますが、オリジナルは読書猿さん何ですか?
「大全」本は、最近出てきたものではありません
[読書猿の回答]
いいえ。もともと「大全」というタイトルを持つ書籍は、日本では2000年以降、毎年200~300点程出版されていました。私の著書『アイデア大全』『問題解決大全』が出たのが2017年ですが、むしろそれ以降「大全」本は減っています。
※グラフは「Webcat Plus Minus」(http://webcatplus.nii.ac.jp/pro)で「大全」をタイトルに含む書籍を検索した結果の年別件数。著者調べ。
「大全」という題を持つ(あるいはそう訳された題をつけられた)書物は古今東西にあります。
・アイザック・ウォルトンの『釣魚大全』The Compleat Angler(1653年)
・石井治兵衛の『日本料理法大全』(1898年)
・多田南嶺編『古今役者大全』(1750年)
・胡広らが王命によって撰した『性理大全』(1415年)
・東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世が命じて編纂させた『ローマ法大全』Corpus Iuris Civilis (534年、但し題名は1583年にゴトフレドゥスが刊行したときつけられたもの)
・教皇グレゴリウス 13世の勅法による『教会法大全』Corpus Iuris Canonici (1582)
しかし何より「大全」という言葉で思い浮かぶのは、そしてスコラ哲学において、特に 13世紀に多く書かれたSummaでしょう。summaとは、英語だとsummitの語源に関連するような言葉ですが、「頂点」という意味から転じて、より大きな全体の要約といった意味を持つ言葉になりました。
このアンチョコ程度の書物だったものが、アベラールの「然りと否」 sic et nonの方法(権威ある諸説を対立する2群に分けて提示しそこから新しい解決を引出すという一種の弁証法的手続)、これが先行する命題集と総合されることで、「大全」と訳すにふさわしい全体性と統一性を備えた書物形式に成長します。たとえばトマス・アクィナス『対異教徒大全』Summa contra gentiles(1259~67年) や『神学大全』Summa theologiae (1266年ころ着手、未完)が代表的なものでしょう。
(トマスの師アルベルツス・マグヌスにも同名の著あり)。