糞便だらけの宮殿

 当時、便意を催せば、時、ところかまわず、排せつ行為が公然と行われた。十七世紀フランス芸術を代表するベルサイユ宮殿。その初期建設工事にはトイレ用にも浴室用にも水道の設備がなかった。

 宮殿のなかで、ルイ一四世や有名な王妃マリー・アントワネットなどが使用していたトイレは腰かけ式便器だ。おしりの部分に穴が空いている椅子型の便器で、汚物は下の受け皿にたまるようになっていた。王様用は、ビロード張りで金銀の刺繍付きの豪華なものだった。

 この時代、ベルサイユ宮殿には、王様や貴族、その召使いなど約四〇〇〇人が住んでいたと推定されているが、腰かけ式便器は二七四個しかなくあまりにも数が不足していた。このため、豪華絢爛な舞踏会のときには、清潔好きな人は携帯用便器(おまる)を持参した。便器にたまった汚物は、召使いたちが庭に捨てていた。宮殿内の便器の中身も庭に捨てていたのに加え、近くに便器のない人は廊下や部屋の隅、庭の茂みで用を足した。その結果、美しいことで有名な庭園も、糞便であふれ、ものすごい臭いが漂っていたらしい。

 この様子に宮殿の庭師が怒り、庭園に「立ち入り禁止」の札を立てた。はじめは無視されていたが、ルイ一四世が立て札を守るよう命令を出してから守られるようになった。実はエチケットはフランス語で「立て札」の意味なのだ。このエピソードからエチケットが現在のように「礼儀作法」を示すようになったといわれている。