確かに、「正規のプロセスを踏む前に密室で人事を決める」ということが、政治、役所、そして民間企業など日本のいたるところで行われているのは、紛れもない事実だ。建前としてはみな「透明性」「ゼロからの議論」をうたうが、本気でそれをやったら話はいつまでもまとまらないので、ある程度の「根回し」をしておくのは組織人の「常識」と言ってもいい。
こういう「建前と現実」のギャップを目の当たりにしている人ほど、森氏の「密室人事」に理解を示しがちだ。つまり、森氏が理事会を通さずに「川淵新会長・森相談役」という新体制の根回しをしたのは、権力に固執したからではなく、1日でも早く組織の再スタートを切るために必要だったからで、それがマスコミの理不尽なバッシングで台なしにされたという考え方なのだ。
「調整」によって権力を増大した
密室の王・森喜朗という存在
もちろん、これにまったく賛同できないという人も多いだろう。そのような「密室」でしか大事な物事を決められないカルチャーが、長老支配や利権の集中を招き、周囲にイエスマンばかりでトップが暴走するというガバナンス不全を引き起こしたのだ――そんなご批判もあるだろう。
そうした指摘もごもっともであり、実際、森喜朗という人はこれまで自身の産経新聞への入社、内閣総理大臣就任、キングメーカーとしての暗躍などを、「密室での調整」によって成し遂げてきた。密室カルチャーを巧みに利用して権力を増大させてきた、いわば「密室の王」ともいうべき政治家である。
そんな人が「五輪の顔」になることの違和感は、実は「身内」である日本のマスコミより、海外メディアの方が客観視できている。今月11日、日本テレビの『スッキリ』でコメンテーターを務めるジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんは、日本国内で森氏を擁護する「面倒見が良かった」「利害調整で手腕を発揮した」という声が、欧米のニュースでやや皮肉調に伝えられていると指摘した。
この背景には、日本でいう「調整」を英語にすると、「バックルーム・ディーリング」という「密室の取引」という意味になることがあるという。つまり、日本人が「森さんの調整力はピカ一だ」「根回しが素晴らしい」などと褒め称えれば称えるほど、それが海外ニュースで報じられると、「ああ、このおじいさんは、えぐいこと、汚いことをやる人なんだな」というイメージが広がっていくというわけなのだ。