ウイルスの感染を、
いかにして防ぐか
廣瀬助教が今回の研究を思いついたのは、新型コロナウイルスの感染が広がる以前のことだ。
医師になって感染制御チームに入り、院内感染対策でアルコール消毒を呼びかけていたが、その根拠を説明できないことにもどかしさを感じていた。
「アルコール消毒の効果を疑問視する医師を説得したいのに、理論や研究を調べても出てこない。ならば作ろうと考えたわけです」
アルコール消毒の効果と弱点を調べるため、主にインフルエンザ対策として数年前から研究を始めた。リアルに近い状態での効果を知りたいが、ヒトの皮膚に病原体をのせるのは危険だ。悩んでいたところ、司法解剖での皮膚の一部を使えることを知った。
「ちょうど新型コロナがはやり始め、解析ターゲットの第1号になりました。もともと新型コロナ対策で作ったモデルではないので、今後出てくるウイルスにも役に立つはずです」
感染制御の世界では、「エビデンスが非常に少ない」と廣瀬助教は話す。
「ウイルスの遺伝子解明などの研究が進んでも、感染リスクという基本的な部分の研究は進まず、手洗いやアルコール消毒も、やったほうが良さそうではあるという程度で、根拠が少なかったんです」
今回の研究は、接触感染のリスクを評価し、感染制御の方法を確立させるための大きな一歩となった。
いま困っている人に、
解決策を提供する研究

研究への原動力は、「できる限り人の役に立ちたい」という思いだ。知的好奇心を満たすための基礎研究ではなく、いま困っている人に解決策を提供できる研究に力を注ぐ。
新型コロナウイルスがどういうものかわからない中で、インフルエンザウイルスと比較したのも、わかりやすさを重視したからだ。
「インフルエンザよりも耐久力が強いが、消毒薬の効果は同様にあることがわかった。この冬は新型コロナだけがはやり、インフルエンザより耐久力が高いのではという予想がありましたが、その裏付けが取れたかたちです」
切実に求められている感染制御の研究だが、遅々として進まないのはなぜか。日本には感染症の専門医が少なく、それゆえに魅力に欠け、人材が育たないという悪循環があるからだ。
そんな中で廣瀬助教は、大学時代から感染症の研究に関心を持ち、3、4年生のときの基礎研究配属では、募集もしていない感染症の研究室に飛び込んだ。