チームが疲れているように見える……。みんな一生懸命に働いているし、能力が足りないわけでもない。わかりやすいパワハラがあるわけでもなければ、業務負荷が過剰になっているわけでもない。だけど、チームは疲弊するばかりで、思ったような成果を出せずにいる……。なぜだろう? そんな悩みを抱えているリーダーが数多くいらっしゃいます。
その原因は、心理的リソースの消耗かもしれません。心理的リソースとは、「面倒くさいけど、やるぞ!」と奮起する心のエネルギーのこと。メンバーの心理的リソースを無意識的に消耗させていると、徐々に活力が削がれ、場合によっては崩壊へと向かっていきます。そのような事態を招かないためには、チームの心理的リソースを活用していくマネジメント力を身につける必要があります。
櫻本真理さんの初著作『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』では、そのための知識とノウハウをふんだんに盛り込んでいます。本連載では、その内容を抜粋しながら紹介してまいります。
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私たちは刻一刻と「心理的リソース」を費やしている
人は常に心理的リソースの増減を繰り返しています。
それは、あなたも例外ではありません。この記事を読んでいるこの瞬間も、あなたのなかでは心理的リソースが増えたり減ったりしているはずです。
たとえば、文章を読んで理解するためには、それだけでも心理的リソースを費やします。また、この記事の内容に「なるほど、たしかにそうかも!」と共感していただけたとしたならば、その瞬間には心理的リソースが増えているはずです。
あるいは、その合間にふと、「あ、あのメール返すのを忘れてたかも」と思い出して、焦りの感情で心理的リソースをすり減らしているかもしれません。
ジョブズが毎日同じ服を着ていたのは、「心理的リソース」を節約するため!?
少し目を閉じてみてください。
そして、自分のなかで心理的リソースがどんな状況にあるかを感じてみてください。
といっても、どうしたらいいかわからないかもしれませんね。そこで、ここでは、心理的リソースが増減している領域を「アタマ(思考)」「ココロ(感情)」「カラダ(身体)」に分けて、それぞれ見ていきたいと思います。
この3つの領域に分けて自分を観察することで、心理的リソースに対する解像度を高めることができるはずです。それでは、それぞれの領域で、どのように心理的リソースが消費されるのかを見ていきましょう。
まず、「アタマ(思考)」の領域から始めましょう。
私たちは、日々、無数の「思考」や「判断」をしています。
「今日は、どの服を着て行こうか?」「今日はどのように仕事を進めようか?」「このメールに、どう返事しようか?」……数えきれないほどの「思考」「判断」を繰り返すのが私たちの生活であり、それらをこなすたびに心理的リソースを消費しています。
スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたエピソードは、よく知られています。
ジョブズは、日々、膨大かつ重大な「意思決定」を迫られる毎日を送っていました。その「意思決定」の精度を高めるためには、心理的リソースという限りある資源の消耗をなるべく避けることが不可欠でした。
そこで彼は、「服を選ぶ」という、彼にとって重要ではない「思考」と「判断」をできる限り省略することによって、心理的リソースを少しでも温存しようとしていたのです。ジョブズがいかに心理的リソースを大切にしていたかを、象徴する逸話だと私は思います。
多くの職場で「心理的リソース」が浪費されている
ところが、残念ながら、多くの職場では、この貴重な資源である心理的リソースがさまざまな形で無駄に浪費されています。
たとえば、上司からの曖昧な指示。「あれやっといて」「さっきの話、うまくまとめといて」などといった指示をされた部下は、「何時までに、どのくらいの精度でやればいいのか?」「うまくまとめるって、どういうこと?」などと悩むことを強いられます。
そして、明確な指示をされていれば、全く使う必要のなかった心理的リソースを浪費することを余儀なくされるのです。
「わからないことは、すぐに上司に確認すればいいじゃないか」と言う人もいるかもしれませんが、その「上司に聞こうかどうしようか」と悩むプロセスのためにも、さらなる心理的リソースが消費されることを忘れてはなりません。
あるいは、「複雑な状況」によっても心理的リソースは消費されます。
たとえば、上司から矢継ぎ早にタスクが降りてきて、やるべきことが複雑になりすぎると、部下は「どれから手をつけたらいいのか?」を考えるためにアタマを使うことになります。そして、本来、上司がタスクの優先順位を明示してさえおけば、使う必要のなかった心理的リソースを浪費してしまうのです。
「不安」「不満」「怒り」で心理的リソースは消耗する
次は「ココロ(感情)」の領域です。
「間違えたら怒られるかも」「失敗したらどうしよう」など、不安や恐れの感情は、誰もがもっていますし、それ自体は健全なことです。そう感じるからこそ、人は慎重になり、期待に応えようと努力できるからです。
けれど、同時にその不安や恐れは、心理的リソースを消費する原因にもなっています。なぜなら、脳は、不安や恐れに関する情報を優先的に処理しようとするからです。



