2019年7月、母子は最後の住居となったアパートで暮らし始めた。相変わらず、生活保護の対象となっているのは母親1人だけであり、実態としては長男との2人暮らしであった。もしも実態に即して、2人世帯として生活保護の対象になっていれば、1カ月分の「最低限度の生活」の生活費は12万3490円である。しかし、八尾市は母親の単身世帯としていたため、生活費として給付されていたのは7万6310円であった。
さらに、月々2万円の返還を求めていたため、母子2人の1カ月分の生活費は5万6310円だったことになる。とても暮らしていける額ではないだろう。母子は再び、公共料金を滞納するようになった。友人たちに食料の差し入れや「もらい風呂」の支援を求め、応じてもらっていたが、2019年秋頃からは友人たちに連絡を取ることもなくなっていったようである。
保護費を取りに来なくなった母親
「失踪」を理由に生活保護を打ち切り
12月26日は、2020年1月分の保護費の支給日であった。母親に対して保護費は手渡しとなっていたが、母親は保護費を取りに来なかった。担当者は母親に電話したが、電話は不通となっていた。以後、生存が確認されないまま、2020年1月に水道の供給が停止された。
母親は2020年2月分の保護費も取りに行かなかった。2月10日、八尾市職員が訪問し、カギがかかっていなかったためドアを開けて室内を覗いたが、異変には気づかなかったという。そこには、死後20日ほどが経過していた母親の遺体があったはずである。もしかすると、虫の息の長男、あるいはまだ遺体になったばかりで温もりの残る長男もいたかもしれない。八尾市は「失踪」を理由として、2月18日に生活保護を打ち切った。そして2月22日、母子は遺体で発見された。
長年にわたり、日本の貧困と生活保護に取り組み続けている弁護士の小久保哲郎氏は、この生活保護打ち切りの判断に疑問を表明している。
「母親と連絡が取れなくなってから、1カ月半にわたって安否確認をしていなかったのに、生活保護の打ち切りは1週間で迅速に決定しています。理由は『失踪』となっていますが、それも『連絡が取れない』というだけで判断しています」(小久保氏)