経営学の大家ヘンリー・ミンツバーグ。『マネジャーの仕事』『戦略サファリ』などのベストセラーでも知られる氏が「これは私にとって12冊目の著書だ。これまで書いた中で一番真剣な本と言えるかもしれない」と述べるのが2月17日に発売となった『これからのマネジャーが大切にすべきこと』である。
本書は「マネジャーは欠点を見て選べ?」「意思決定とは『考えること』ではない」など、42のストーリーで構成されており、遊び心に富んだ表現で、マネジャーの仕事の本質を鋭く説いている。
今回は本書に推薦コメントを寄せたクロスフィールズの小沼大地氏に、その魅力を伺った。
一橋大学社会学部・同大学院社会学研究科修了。青年海外協力隊として中東シリアで活動後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて勤務。2011年5月、NPO法人クロスフィールズを創業。国際協力NGOセンター(JANIC)および新公益連盟の理事も務める。著書に『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)。
リーダーシップに頼りすぎると、組織は壊れる
――本書は42のストーリーで構成されています。小沼さんがこの本で、最も印象に残ったものは何でしょうか。
小沼 二つあるのですが、一つは「3.マネジメントとリーダーシップ」。ここで印象に残ったのが、リーダーシップが過大評価されているというところです。リーダーはビジョンだけを語っていればよいわけではないと説き、マネジメントの重要性を改めて投げかけているところが、本質を突いていると感じましたね。
私自身、いわゆる「リーダーシップ」を起業家として発揮して、事業を立ち上げた経験があります。最初の数年間は良かった。けれども、6年目に組織を壊してしまうタイミングがあったんです。その時にリーダーシップだけではなく、組織をマネジメントすることにまで責任を持つことが、チームを率いるリーダーには求められると痛感したんです。
――組織を壊すとは?
小沼 お恥ずかしい話になりますが、私は前向きで明るいところが強みだと認識していたんです。と同時に、それを周りにも強要しすぎていたんです。そうすると組織の中のコミュニケーションが窮屈になり……良い情報しか話さない、不満・不平は話すべきものでないものという空気が漂うようになってしまって。
ある時、表に出ていなかったチームの中の諍いや、私に対する負の感情といったものが一気に爆発して、チームが動かなくなってしまうような状況を経験しました。結束力が低くなって、変化に対応する力も落ちてしまった。
どん底だった頃は、チームで合宿をした時に、みんなで悲しくて泣いてしまっていました。ちょうどその時期、オフィスの引っ越しがあったのですが、チームがまとまっていなくて、引っ越しすらスムーズにいかないという状況でしたね(苦笑)。
――当初は、強いリーダーシップで引っ張ることのできていたチームが、次第に動かせなくなってしまったんですね。
小沼 やっぱりマネジメントが必要です。今は「起業家万歳」というような風潮がありますよね。もちろん、リーダーシップを重視するリーダー育成のあり方は、私自身も起業家ですし、学ぶところがあります。企業でマネジメントしかしていない人にリーダーシップが必要だということも理解できます。しかし、それが行き過ぎてリーダーシップ至上主義になってしまっているところが問題ではないのかなとも感じているんです。
ミンツバーグが「現場を見て、メンバーのことをきちんと考えられるのが、組織を率いる上で大切だ」と、あるべきマネジメントの姿を述べていることは、リーダーシップばかりが重視される今、とても重要だと感じるストーリーでした。
私自身も、これからはリーダーシップを発揮するだけでなく、マネジメントにも意識を向けて、良い事業と良いチームをつくっていくことにコミットしたいですね。