非営利組織だけでなく、企業も数字にとらわれすぎるな

――もう一つ印象に残った部分はどこでしょうか。

小沼 「20.『効率化』の落とし穴」ですね。効率と定量目標を否定しているところが面白いなと思いました。私たちのような非営利組織でマネジメントをしていると、どうしても効率だけではダメになってしまったり、定量目標を追いかけることによって、大事なものを失うこともある。目に見えないものを追いかけるという側面が必ずあるんです。

 ミンツバーグが非営利組織に限らず、企業においても効率と定量目標を追いかけるだけではダメだと言っているところは、企業の皆さんには特に新たな発見が多い箇所ではないかと思います。

――小沼さんはミンツバーグのファンだと伺いました。彼の著作の魅力は何でしょうか。

小沼 ミンツバーグの前著『私たちはどこまで資本主義に従うのか』も今回の『これからのマネジャーが大切にすべきこと』も、一般的な言説とは真逆だと感じる部分が多くあります。だからこそ、ミンツバーグの言葉には、既存の物事の見方に、一石を投じる大胆さがあると思っているんです。本の中でも、歯に衣着せず、企業や他の著名な経営学者の言説に対しても、痛快に批判しますよね。

 ただ、私はそういった部分が、ミンツバーグの好きな点である一方、絶対に鵜呑みにできないし、すべきでもないとも思っているんです。ミンツバーグの見方に触れて、「じゃあ自分はどう思うのか」とある意味反論するような目で読んだりする力が読み手に求められると思うんです。

 ミンツバーグの語るマネジメントや組織づくりは、「単純明快な方法論」ではないので、受け手によっては暴論っぽく聞こえてしまうかもしれない。「果たして実践できるか?」と言われると、「どうだろう?」と思うところもあります。では、実践的でないから意味がないのと言われればそうではない。ちゃんとその中にエッセンスがある。自分の中に残るものがある。 

 私は年末年始に、『ゼロ・トゥ・ワン』など、経営にかかわる本を中心に10冊くらい本を読みました。特に最近のスタートアップを論じた本などは、どれもミンツバーグとは対極と感じるような本ばかりでした。ミンツバーグと他の本を対比しながら読むことでも、新しい視座を得られると感じています。

資本主義のど真ん中にいる人にこそ、一度読んでほしい

――マネジャーに向けて書かれた本書ですが、小沼さんはこの本をどのような方に薦めたいと思われますか。

小沼 一番は資本主義のど真ん中にいる人たちに、読んでもらいたいと思います。大企業の経営者および、その下で働く管理職やマネージャーの方々でしょうか。定量的なKPIに沿って動いている人たちに、そうではない世界があるという見方を提示してくれる。その上で自分たちはどう考えるのかと議論するきっかけになる本だと思います。

 加えて、「40.『もっと多く』より『もっとよく』」というストーリーでは、IPO後、「株主価値」が最優先の発想が優先されがちな中、創業の理念を守り、企業がどのようにして幸せであり続けるかということが書いてあります。スタートアップでCEOやファウンダー、CFOとして働く人たちにも、投げかけるものがあるような気がしますね。