実際、この論理の下、誰もやろうとしないことをやって、そのニッチな市場で大きなニーズを掘り起こし、ビジネスを成功させたケースはごまんとあります。

 そういう市場を見つけるコツは、まず常識を疑ってみること。

 たとえばペットボトルの水やお茶だって、かつては「ニーズがない」と言われていました。タダ同然で手に入るものに、わざわざ高いお金を払う人はいない。当時の人たちはそう考えていたのです。しかし、現実にはニーズがあった。ですから、いまでは「なくてはならないもの」になっています。

 もちろん、ここまで市場が大きくなると、まさに「にっちもさっちもいかない」という状況。でも、市場がないときに乗り出せば、先行者利益を独り占めできるではないですか。ビジネスでは多くの場合、誰もが儲かると思う分野に、大勢が進出しています。そんな「分け前にあずかる」ようなやり方では、とても一人勝ちは望めません。わざわざ大変な競争を自らに課すようなものだからです。

能力を「分散」してはならない

我専(われあつ)まりて一と為り、敵分かれて十と為らば、
是(これ)十を以て其の一を攻むるなり。

競争の少ない地味な分野で、独自の能力を磨きなさい。一点集中主義でいけば、際立った存在になれる。

 経営ではよく「選択と集中」が大事だと言われます。たとえば「ここなら勝てる」という分野を決め、そこにヒト・モノ・カネという経営資源の8割を注ぐ。そのうえで、あと2割の力を均等配分して、他の分野に投下する。そういう経営戦略を持て、ということです。

 それはなぜか。いろんな分野の力を総花的に強化しても、総合力は上がるでしょうが、突出して強い分野をつくることができません。どの分野もボチボチで、ライバルたちに食われることは目に見えているからです。

 それより「ここなら勝てる」という得意分野、もしくはライバルの少ない分野を選択して、そこを集中して強化することで、独自性の高い際立った経営を目指したほうがいい、ということです。

 孫子のこの言葉はそれに似ています。個人で言えば、ほかの人があまり強くしたいと思わないような能力に磨きをかけ、達人がうようよしている分野の能力はそこそこでいい、とする考え方ですね。

 たとえば、いまや英語はできて当たり前。でも、英語力はあったほうがいいので、ビジネス会話くらいはできるようにしておく。それが2割の力だとしたら、残る8割の力をヒンディー語の習得に注ぐ。