◇うつはもともと防御機能だった

 ストレスを感じると、心臓の拍動が早くなり心拍数が上がる。それは人間も動物も同じだ。たとえばライオンに遭遇したら、すばやく反応して攻撃するか逃げるかを判断しなければならないため、筋肉には大量の血液が必要になる。

 現代では、命にかかわるほどの危険にさらされる機会はほとんどない。だが仕事の締め切りや高額な住宅ローン、「いいね」があまりつかないといった心理的なストレスを受けると、脳内で「闘争か逃走か」というシステムが作動する。このようなストレスは、ライオンに出くわしたときほどの集中力は求められない代わりに、長時間継続することが多い。ところが人間は、そのようなストレスに対応するべく進化してきていないため、脳がうまく機能しなくなる。その結果、お腹の調子を崩したり、不眠や性欲低下に苦しんだりするようになるのだ。

 スウェーデンでは、大人の9人に1人以上が抗うつ薬の処方を受けているほど、うつが増加している。強いストレスを感じると、「危険がそこら中にある」と脳は解釈し、私たちの気分を落ち込ませ、引きこもらせようとする。これは、脳が現代社会にうまく適応できておらず、逃げるという解決策をとるために起こる現象だ。うつとは、人間を助けるために発達した防御機能なのである。

【必読ポイント!】
◆スマホにハッキングされる脳
◇脳は新しく、不確かな情報を求める

 多くの人がスマホに依存しているのは、スマホが脳内の報酬システムをハッキングし、人間の行動を促すドーパミンの量を増やすからだ。新しい情報や環境、出来事に接すると、脳はドーパミンを放出する。食料や資源が常に不足していた世界では、新たな可能性を求める衝動を備えた人間のほうが、食べ物を見つけられる可能性が高かったためと思われる。

 現代では、パソコンやスマホがもたらす新しい知識や情報によって、脳はドーパミンを放出する。そして私たちの祖先が新しい場所や環境を見つけたときと同じように、報酬システムを作動させる。