ニュージーランド、シンガポールなど4ヵ国が締結している自由貿易協定「パシフィック・フォー」(P4)を飛躍的に拡大し、「環太平洋戦略経済連携協定」(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership、TPP)に発展させようという野心的な構想の交渉が3月中にも本格化する見通しだ。
ここで気掛かりなのは、この構想を、日本政府が事実上、黙殺しようとしていることである。日本とは対照的に、米国、豪州などの4ヵ国はすでに、このTPP交渉に積極的に参加するとの意思表明を済ませている。
一方、日本はこれまでに、P4諸国との間で、それぞれ個別に自由貿易協定(FTA)を締結しており、工業製品について低い関税率の適用を勝ち取っている。つまり、今後、日本がTPP構想に参加し、そこから直接的なメリットを享受しようとすれば、農産物を輸出商品として育成するぐらいしか有効な選択肢がないかもしれない。
しかし、関係省庁がそうした調整・労苦を厭い、P4諸国から日本に対し熱いラブコールが届いていることすら積極的に開示しようとしないのは、国益をハナから損なう行為ではないだろうか。麻生太郎政権に実現する指導力がなさそうであっても、参加の是非について民意を問う度量を持ってほしい。
真剣に議論すれば、TPP交渉への参加をテコに、保護主義勢力が台頭する米議会を牽制するとか、TPPという巨大市場の形成を背景に自由化が遅れている中国に門戸開放を迫るとか、いくらでも外交的な戦略も描けるはず。
現下の未曾有の経済危機からの脱却には、内需の振興だけでなく、あらゆる機会を捉えて外需の拡大も図るべきである。今こそ、政府は、機動的な戦略性を求められている。
弱体政権への諦念からか、
日本の省庁は参加に消極的
まずP4の概略を説明しよう。日本ではほとんど馴染みがないが、P4は、ニュージーランド、シンガポールに、ブルネイとチリを加えた4ヵ国が、2005年に合意、2006年に発効させた自由貿易協定である。
当初は、貿易の自由化と拡大が主たる目的であり、4ヵ国の間で低率の特恵関税を適用することがその協定のポイントだった。しかし、昨年春からは、より強固な経済的な結び付きを構築するため、金融サービスや投資分野での交渉にも着手した。