他人の視線にカツラーは殺される!
カツラーの敵は数々あるが、中でも強烈なのは、「他人の視線」だ。
初対面で名刺を交換する。
「小林信也です。よろしく……」
頭を下げてから相手の顔を見ると、なぜか相手の顔が上(私の髪のほう)に向いている。
胸がズキッとする。
(ばれたか……、カツラとバレたのか?)
できるだけ平静を装う。間違っても、髪を触ったりしてはいけない。そんなタイミングで慌てて前髪を両手で直したら、ますます怪しい。だけど、気になる。
(乱れているのか、カツラがはねて、わかっちゃっているのか?)
不安、不安、不安……。鏡を見たい、でも見るわけにもいかない。その辺にある鏡のようなものを必死で探す。目の前の相手に対する気はそぞろ。
「ところで小林さん、最近はどんな仕事を」
「え? あ、はあ……」
それより問題はカツラだ。
話す間にも相手の視線がしばしば上に向くなんて経験を、私はいったい何度重ねたことだろう。そのたび、不安に胸が締めつけられ、自己嫌悪にさいなまれる。
(こんなみっともない思いまでして、なんでカツラをかぶっているんだ)
バレたかどうかよりも、バレてたとしたら何か決定的な理由があるはずだ。ご飯粒が口元についているくらいならまだ笑えるが。
(まさか、分け目のところ、カツラの白いベースが剥き出しになっているとか……?)
みっともない、もしやそんな状態だったら死にたいくらい、恥ずかしい。ワタシ、カツラ、デス。と看板を下げているようなものだ。