若いイケメンのオーナーシェフが切り盛りする、隠れ家風のおしゃれなバル――。オーナーは実は真の家主にさまざまなリスクを押し付けられて搾取され、新型コロナウイルスの感染拡大で受け取れるはずの政府の補助までピンハネされていた。悲惨な“名ばかりオーナーシェフ”の実態は…。(ジャーナリスト 横田由美子)
こぢんまりしたバルのジャニーズ風オーナー
手厚いコロナ給付でも「貯金が…」
「コロナの心配もあるのですが、最近、お客さんのことを直視できない。ひょっとしたら、自分は、お客さんをだましているのかもしれないと思うと、『頑張ってね』と言われても、『ありがとうございます』という言葉がすぐに出てこないんです」
行きつけのイタリアンバルで、ワインを昼飲みしていると、店内に他に客がいなかったこともあり、“オーナーシェフ”のA君が、相談に乗ってほしい、と話しかけてきた。
このバルは、日本で新型コロナウイルスの感染が本格化する直前の2020年1月にオープンし、Aシェフが一人で切り盛りしている。まだ20代後半で、背が高く、見た目もジャニーズ風で格好いい。カウンターとテーブル席を合わせると、満席でも15人程度のこぢんまりとした店だが、すぐに、「若くて元気なシェフの店を一緒に育てよう」と、常連客が付いた。
ワインはリーズナブルだがコストパフォーマンスのよいものがグラスでそろっているし、何より、彼のパスタ料理がおいしく、女性だけでなく、中高年の男性にもファンは多い。
だがコロナ後は、幾度となく繰り返される東京都からの時短要請で、こうしたバルなど、夜型のお店にとっては厳しい状況が続いている。コロナ対策として、持続化給付金や家賃支援金だけでなく、飲食店に対しては1日最大6万円の時短営業協力金など、手厚い補助が国の施策としてなされている。
他にも感染症対策などでさまざまな助成金が使える仕組みになっているので、私はA君のお店については、あまり心配していなかった。
そもそも、これらの協力金などに対しては、チェーンの大規模な飲食店から小規模な個人事業主まで「一律」という点で、不公平だとの批判が起き、訴訟になっているケースもある。
大きな店舗ほど不利になるが、A君のように一人で切り盛りしているような店舗では、思い切って店を閉め、協力金を得ているケースもあるぐらいだ。しかしA君は、コロナ禍の中でも年中無休で店を開けていたし、テークアウトにも対応していた。お客は、さすがに満席というほどではないが、1日に何組かは入っているようだった。
しかし見かけとは裏腹に、A君の状況は極めて深刻だった。
「もう、預貯金が尽きかけているんです。今月の店の家賃は大丈夫なのですが、自宅の賃貸マンションの家賃は危ないんです」と、言うではないか。