「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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なぜ日本の教室では「手が挙がらなくなる」のか
――坂田さんは、アメリカと日本の両方で教育を受けてきたそうですね。教育の違いを最初に実感したのはいつでしたか?
小学校高学年でアメリカから日本に帰国した直後です。
国語の授業で、先生が生徒に文章を読ませる場面がありました。私はとりあえず手を挙げました。正しい読み方には自信がありませんでしたが、挑戦してみようと思ったからです。
ところが、読み間違えた瞬間にクラスから笑いが起きました。そして先生にこう言われたのです。
「答えが分かってから手を挙げなさい」
当時の私は、その意味がよく分かりませんでした。アメリカでは、まず挑戦すること自体が奨励されていたからです。
その後も似たような経験が何度もありました。気づけば、日本人ばかりの環境では発言を控えるようになっていました。
「環境が人の行動を変えてしまう」のだと実感しました。
――アメリカの学校では、どのような教育が行われていたのでしょうか?
象徴的だったのは、小学校の理科の授業です。先生は最初から正解を教えません。生徒はまず仮説を立て、実験をし、その結果を検証します。
興味深いのは、実験の内容が生徒ごとに違っても構わないことです。評価されるのは「結果」ではありません。「仮説を立てて検証する」というプロセスです。
仮に実験が失敗しても、クラスメイトは「Good try」と声をかけます。
そして先生は「Keep challenging」と言います。むしろ、質問されたときに手を挙げないと注意されることさえありました。
また、私のマインドセット自体はアメリカの教育で形づくられました。今でも「ファーストペンギンであろう」と意識していますが、これは最初に海へ飛び込むペンギンを指します。
過去のやり方を踏襲するのではなく、新しいやり方を試す。その姿勢は、教育環境によって育まれたものだと思います。
つまりアメリカでは、失敗よりも「挑戦しないこと」のほうが問題だと考えられていたのです。
日本で育つ「失敗を避ける合理性」
――その違いは、その後の人生にも影響しましたか?
かなり影響していますね。興味深いのは、自分の行動がそのとき置かれている環境によって変わることです。
日本人ばかりの環境では、発言するデメリットを無意識に計算するようになります。間違えれば評価が下がるかもしれない。空気を乱すかもしれない。そう考えて、発言を控えるようになります。
つまり、日本では「挑戦すること」よりも「間違えないこと」のほうが合理的な行動になってしまうのです。
一方で、外国人が多い環境では、むしろ積極的に発言します。
――なぜ日本では失敗が奨励されにくいのでしょうか?
理由は大きく二つあります。
一つは教育方法です。日本の学校では、暗記して正解を出すスタイルが中心です。その結果、「正解を出すこと」が評価の軸になります。
もう一つは文化です。日本社会はある意味で「村社会」です。先輩後輩の関係が重視され、先生は「先に生まれた人」として正しい存在だという前提があります。
一方、アメリカは多民族国家です。価値観の異なる人々が集まる社会です。何が正しいのかという共通の前提が最初から存在しないため、まず試してみて、うまくいく方法を探していくしかありません。
ある意味で、社会そのものが「実験国家」と言えるでしょう。試してみないと分からない。だから挑戦することが前提になるのです。
日本でもできる「失敗の奨励」
――では、日本はアメリカ型の教育を目指すべきなのでしょうか?
いえ、それは違います。そう単純な話ではありません。
日本の文化を変えることなど簡単にはできませんし、日本の村社会にももちろんメリットがあります。アメリカが良くて日本がダメ、という二項対立の話でもありません。
ただ、一つだけ変えられることがあります。それは失敗の扱い方です。
結果だけを見るのではなく、プロセスを見る。挑戦したこと自体を評価する。これだけでも組織の空気は大きく変わります。
そして、誰かが挑戦して失敗したときには、「Nice try」と言えばいい。他人にも、自分にもです。
まずは1日1回、意識して「Nice try」と言ってみるのもいいと思います。小さな習慣ですが、それだけで挑戦する人は確実に増えます。
失敗を責める社会から、挑戦を称える社会へ。その変化は、思っているよりも小さな一歩から始まるのかもしれません。
なお、拙著『戦略のデザイン』のレッスン10では、こうした「失敗から学ぶための仕組みづくり」について、具体的な事例や実践方法とともに詳しく紹介しています。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




