ダ・ヴィンチの構想力

出口:ただ、もうちょっと時間軸を置いて、3年ぐらいのスパンで見ると、出てくるんじゃないですか。予言というのは結局、「時間軸」の問題ですから。

以前、ある人と議論したことがあります。その人は、

「レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)はいろいろなことを考えたけれど、生きているときには何ひとつ実現できなかった」

「ダ・ヴィンチには才能があったかもしれないけれど、途中でやめたり、未完で終わっている作品も多い。世間で言うほどには、たいしたことがないのでは?」

と言うので、僕は、ダ・ヴィンチに関しては信奉者ですから、こう反論しました。

飛行機を含めて、ダ・ヴィンチが夢想したものは、今、ほぼ全部できていますよね。

ダ・ヴィンチが生きていたのは今から500年以上前。あれだけの昔に、これだけの予言をした人はいない。そして、「こういうものが必要」とか「こういうものは世の中にあっていい」と思う能力は構想力。その構想力のすごさは、その人の人生の中で実現できるかどうかとは関係がないでしょう、と。

時間軸を、ダ・ヴィンチの人生だけではなく、人間社会に置き換えたら、ダ・ヴィンチは、飛行機を含めて自分が考えたことのほとんどが実現している。「だから、ダ・ヴィンチ以上の天才はいないでしょう」と言ったところ、相手は反論できなかったので、この論争は一応、僕の勝ちかなと思っているのです(笑)。

寺田:そういう意味でも、本当に百々さんの構想力は素晴らしいですよね。

出口:本が売れたのも、タイトルも、本の大きさも、百々さんにつくっていただいたようなものですね。

百々:そんなことないですよ。

出口:これは僕の素人考えですが、こうして寺田さんと百々さんが議論されてつくられたということは大きいですよね。寺田さんは書籍編集のプロフェッショナルですが、書店でお客様に接しているプロフェッショナルの百々さんとは役割が違います。

僕の本がいい例というわけではありませんが、一般的にいい本をつくろうと思ったら、書店で売っている方と編集の方のコミュニケーションがもっとあったほうがいいかもしれないですね。これからいい本が世に出て、売れ続けるために。