バイデン大統領米上下両院合同会議で演説するバイデン大統領  Photo:AFP=JIJI

ジョージ・フロイド事件後も
変わらぬ警察官の暴力

「アメリカ国民のみなさん。今こそわれわれの刑事司法制度から人種差別を根絶し、国民と警察の信頼関係を取り戻すために力を合わせよう!」

 就任100日を前にバイデン米大統領は4月28日夜(日本時間29日午前)、上下両院合同会議で就任後初の施政方針演説を行い、ジョージ・フロイド警察正義法(警察改革法)」の成立をそう強く訴えた。

 ジョージ・フロイドとは、昨年5月25日に中西部ミネソタ州ミネアポリスで白人警察官に首を膝で9分以上を押さえつけられて殺害された黒人男性(当時46)の名前である。

「私は1年ほど前にフロイドさんの葬儀の前に娘さんのジャンナさんと話す機会があった。私が彼女の目の高さまでかがんだときに彼女はこう言った。『パパは世界を変えたのね』」

 彼女が語ったとおり、フロイドさん殺害事件を契機に警察暴力に対する激しい怒りと抗議運動「BLM:ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」は瞬く間に全米、そして日本を含む世界各地にまで広がっていった。

 しかし現実は厳しい。事件から1年経った今も警察官による暴力が止まる兆しは皆無だ。昨年1年間だけでも未成年者を含む1125人もの民間人が警官に殺されている。しかも正当防衛と見なされたのは一部だけだ。

 殺人罪に問われ懲戒免職になった警察官デレク・ショービン(44)に3月20日、3つの罪状すべてで有罪の判決が下った。裁判所の周辺に集まった数百人からは歓喜の声が上がった。確かに歴史的な判決だ。しかし判決から24時間も経たないうちに16歳の少年を含む6人の市民が警察官に射殺されている。今も状況はなにひとつ変わっていないのだ。

 いや、むしろ悪化しているとみたほうがいいだろう。裁判が本格的に始まった3月末からわずか半月ほどの間に、少なくとも64人の民間人が警察によって殺害されたとニューヨークタイムズは報じている。その大半は黒人とヒスパニック系だ。