2021年以降、米国を率いるであろう民主党出身のジョー・バイデン大統領(厳密にはトランプ陣営は負けを認めておらず、1876年以来の下院での投票に持ち込まれる可能性がわずかながら残っている)。私は2001年からホワイトハウスや国務省、財務省など、米国の政権の中枢で政策の立案・実施を担う現役官僚やOB/OGたちと仕事をしてきました。本連載では私の著書『NEW RULES――米中新冷戦と日本をめぐる10の予測』で紹介した米国と中国、世界、そして日本の2021年以降の行く末についてご紹介しています。連載6回目となる今回は、米国で深刻化する人種差別問題について。バイデン次期大統領は多様な人材起用に積極的だが、それによって人種差別問題は落ち着くわけではなさそうだ。

2021年以降、バイデン新政権でもくすぶり続ける人種差別問題Photo:Adobe Stock

人種問題は解決せず、長く共存する

 2020年5月、米国のミネソタ州ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が、白人警官に殺された事件をきっかけに黒人の暴動が始まりました。

 本書が発売される頃には、この事件がどう扱われているかについては定かではありません。黒人の怒りが収まりかけても、週末にかけて新たな暴徒が加わり、再び暴動が過激化するといったことが繰り返されました。事件からちょうど3ヵ月目には、ウィスコンシン州で無実の黒人男性が白人警官に撃たれ、これを機に黒人アスリートたちが試合をボイコットするなど、平和な抗議を始めました。黒人の間でも平和な行動を選ぶ層と過激な行動を選ぶ層に分かれつつあります。

 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、改めて注目を集めるようになった人種差別問題ですが、これは米国の中だけでは解決できないように私は感じています。

 というのも、人種差別問題は単に人種だけを差別しているのではなく、貧困層に対する差別という側面があるからです。

 ワシントンにある有名な法律事務所も、依頼者が支払う金額の多寡によって仕事を選んでいます。大金を支払える依頼者でない限り、彼らは仕事を受けません。相対的に白人よりも貧困層の多い黒人の依頼を受けることはどうしても少なくなってしまいます。今の黒人たちの暴動が戦略的とも思えません。こうした事情も、黒人差別の維持につながっているのです。