大坂なおみPhoto:Matthew Stockman/gettyimages

コロナショックを経て、人々が企業を見る目や意識、姿勢が大きく変化し、これまでよりもさらに誠実であることを求めている。また企業が、悪意はなくても勉強不足や想像力の欠如によって人権を侵害し、大炎上するケースも増えている。何に気をつけるべきなのか。本連載では、注目を集める企業の人権違反とその対応策について紹介する。連載3回目で取り上げるのは、2020年の大統領選挙でも大きなテーマとなった人種差別問題について。大坂なおみ選手が人種差別に抗議する「BLMマスク」を着用したとき、スポンサーである日清食品は炎上し、ナイキは絶賛された。その違いは何だったのか。(オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO 羽生田慶介)

トランプ大統領の最後の訴え
「バイデンは黒人を略奪者と呼んだ」

「リンカーン以来、私ほど黒人のために何かをした大統領はいない」

 ドナルド・トランプ米大統領は、2020年10月22日に開催された2回目の大統領候補者討論会で、こう胸を張った。これに対してジョー・バイデン氏は、「ここにいるのは、現代の歴史で最も人種差別主義者の大統領だ」と反論。

 司会者からの最後の質問「大統領就任式の際、自分に投票しなかった国民にどのようなメッセージを送るか」に対しては、両者とも人種問題に配慮した発言をして討論会は幕を閉じた。

 トランプ大統領は討論会終了後、最後の週末にもツイッターで「ジョー・バイデンは黒人の若者をスーパー・プレデター(略奪者)と呼んだ。彼らは絶対にバイデンを選ばない。彼らは“トランプ”に票を投じるだろう」と投稿。大統領選挙の最終段階で、票読みの結果が芳しくなかったのか、トランプ大統領は最後に、自らが得意としてこなかった「人権」分野を持ち出して支持者を増やそうとした。それが、有権者の心に響く最後のメッセージだという判断だったのだろう。結果は今の報道の通りだ。

 20年の大統領選挙において、人種差別問題が国民の心を動かす大きなテーマであったことは間違いない。それほど米国民は人種差別に敏感になっていた。