大分県で生まれ育ち、小・中・高と地元の公立校、塾通いも海外留学経験もないまま、ハーバード大学に現役合格した『私がハーバードで学んだ世界最高の「考える力」』の著者・廣津留すみれさん。ハーバードを首席で卒業後、幼い頃から続けているバイオリンを武器にニューヨークのジュリアード音楽院に進学、こちらも首席で卒業した。現在はバイオリニストとして活動しながら、テレビ朝日系『羽鳥慎一 モーニングショー』のコメンテーターとしても活躍している。
日本から突如、世界のトップ校に飛び込み、並み居る秀才たちのなか、途方に暮れるような大量の難題を前に、どう考え、どう取り組み、どう解決していったのか? 著者が学び、実践してきたハーバード流の「考える力」について、自身の経験をベースに、どうすれば個人や組織が実践できるかを、事例やエピソードとともにわかりやすく紹介する。(こちらは2020年1月29日付け記事を再掲載したものです)
他人とは
違う意見を発信して
自分のバリューを
アピールしよう
これからの時代、人工知能(AI)に代替されない自分のバリューを発揮するには、自分ならではのクリエイティブなアイデアを発信したり、モノをつくり上げたりするスキルが欠かせません。
「この人にしか頼めない」というスキルへの需要が上がる一方、自分以外の誰かが代わりにできるような仕事へのニーズは、低下傾向にあります。
自分ならではのバリューをアピールするには、根本的に「考える力」を磨かなくてはいけません。
そう初めて実感したのは、私がハーバード大学に入ってからでした。
高校生までを過した日本の学校では、先生から当てられてから発言することが当たり前でした。当てられてもいないのに発言すると「でしゃばりだな」と思われて若干マナー違反になるような雰囲気もありました。
ところがハーバードでは、まるで違っていたのです。
授業は15人程度の少人数制で、発言や議論が活発に飛び交います。教授が問題提起をすると、それに対して、われ先にと意見をいい合う学生ばかりです。
ハーバードに入学して最初の学期に気づかされたことがありました。
それは、授業では出席をとらないので、一度も発言しなかったら欠席とほぼ同じ扱いになるということです。先生が記録をとるのは、もっぱら発言の内容と回数のみ。
学期末の評価も、中間・期末テストの成績だけでなく、授業での発言の記録が25%以上を占めることがほとんど。つまり、成績≒存在価値(バリュー)なのです。
しかも、他の学生と同じ意見では評価されません。
「私もそう思います!」では、何も新たな価値を生まないからです。
仮に自分の前に発言した学生とほぼ同意見だとしても、新しい視点で何かをつけ加えなければ存在価値はありません。
だから授業中、学生たちは自分の存在をアピールするために、頭をフル回転させながら必死に考え、発言します。
ハーバードに入学したての頃は、この授業スタイルにまったく馴染めませんでした。
最初の壁として、「英語力」の問題がありました。母が英語塾を主宰しており、私は幼少期から英語に取り組んでいましたから、英語力にはある程度の自信がありました。
でも、ハーバードの授業で飛び交う英語は、まったくの別物だったのです。
そもそもネイティブスピーカーは早口で聞きとるのが大変でしたし、英検やTOEFLには出てこない若者ならではのカジュアルないいまわし、いわゆる「スラング」も知らないものばかり。
また、ハーバードの学生は全体の約10%がアメリカ以外の国々から集まるので、英語が母国語でない学生のアクセントや発音が聞きとりにくいこともあります。
「これでは授業に出ても満足に発言できない……」
そう危機感を募らせた私は、1学期のうちに教授にSOSを出しました。
「私は日本生まれの日本育ちで、この積極的なスタイルで授業を受けるのに慣れていません。議論のスピードも速すぎて追いつけません」と素直に打ち明けると、教授はきちんと対応してくれました。
「日本人ばかりではなく、アジアからやってきた学生たちには、授業中に自己表現するのが苦手なタイプが多いのはわかっている。いきなり適応するのは難しいだろうから、最初は私が指名します。私からふられたら意見を言ってください」と提案してくれたのです。
そのうえ授業では、私が聞きとりやすいように、質問もゆっくりと投げかけてくれました。それ以降、私は教授にふってもらった質問に着実に答えられるようになり、そのうち教授からふられなくても自分から手を挙げて発言できるようにもなりました。
そして、学生同士のディスカッションに勇気を奮って飛び込めるようになったのです。
こうした経験を踏まえ、ハーバード1年目に私がたどり着いたコツを紹介します。
1 授業前の予習の時点で、何を発言するか決めてメモしておく
2 とりあえず誰よりも先に意見を言う
(誰かに先に言われてしまうと価値が半減してしまうから)
3 細かい指摘をする
(似たような意見を先に言われても新たな視点を提起できるから)
4 意地でも他の学生とかぶらない意見を考える
5 これらがどうしてもうまくいかない場合、かじりつくように議論を聞いて、なんとか新しい意見や質問を固める
こうして私は、毎回の授業を生き延びたのです。
他の人と同じ意見で思考を狭めていませんか?