「マーケティングの失敗例」として紹介されることが多いコカ・コーラ社のニュー・コーク騒動。コーラの味を刷新した結果、苦情や抗議が殺到し、数カ月後に伝統的な味のコーラを復活するに至ったというエピソードである。しかし中長期的な視点で見てみると、あながち失敗とも言い切れないことが分かる。むしろ、当時のCEOが果たした役割から学ぶべき点も多いのである。(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)
優れた経営者は
失敗を逆手に取る
経営はビジネスモデルを作成した後も続く。ビジネスモデルが、導入計画として機能したとしても、ビジネスという旅の難所は、船が港を出た後にも繰り返し出現する。そして作成したモデルや戦略を、事業の開始後に果敢に見なおすことから躍進の機会が生まれることも少なくない。
ビジネスの大海原で起こる出来事を完全に予測することは難しく、そのために起こる失敗がある。こうした失敗は、しないに越したことはない。しかし嵐を避けようとして新しい行動を開始しないのは、本末転倒である。
凡庸な経営者は、失敗をして消え去る。優れた経営者は、転んでからも本領を発揮する。傷口を広げず、失敗を逆手に取って事業を成長に導く。ニュー・コーク騒動の渦中、コカ・コーラ社の会長だったロベルト・ゴイズエタという経営者もその一人だった。