ヒカリの決断

 その日、千の端店での仕事を終えると、ヒカリは、西日暮里の本社にいる猪木を訪れた。クラークシップを続けるかどうかを伝えるためだ。

 部屋に入ると、猪木は待ってましたとばかりに話しはじめた。

「ボクが言ったとおりだったでしょ。仕事はつまらないし、頭の悪い連中ばかりで――。こんなアルバイトを続けたところで時間のムダだし、就職に何のプラスにもならない。大学でしっかり勉強するほうがためになるよ。学校に戻って、安曇先生に『クラークシップなんて時間のムダで、役に立ちませんでした』とでも言うんだね」

 だが、ヒカリは首を縦には振らなかった。

「先輩がおっしゃるとおり、イヤな人がいるし、子どもじみた制服を着なくてはならないし、ホントに最低の2週間でした。でも……、続けさせてください。続けたいんです」

「何だって?まさか本気じゃないだろうね」

「本気です。あのお店、赤字ですよね?」

「なんでそれを知っている?君にわかるはずがないのに――」

 ヒカリはカバンから決算書を取り出して机に置いた。

「これ、拾ったんです」

「えっ!?」

 猪木は決算書を受け取ると中身を確認した。