「もうやってられないよ」

 その嘆きが何を意味しているのか、ヒカリには見当もつかなかった。そっと事務室の中をのぞくと、深刻な顔で頭を抱えている三塚がいた。

「店長――」

 ヒカリが声をかけた。

 三塚は「ああ、菅平さん」と力のない声で答えると、焦点の定まらない目でヒカリのほうを見た。「ちょっと出かけてくる」と、ふらふらと夢遊病者のように立ち上がった三塚は、バランスを失いかけて、近くにあったプラスチックのゴミ箱を蹴飛ばした。中にあった紙くずが床に散らばったが、三塚はそれを拾い集めることもなく、おぼつかない足取りで部屋を出ていった。

 ヒカリはしかたなく散らばった紙くずを拾い集めた。すると、そのうちの一枚に「月次決算書」と書いてあるのが目に飛び込んできた。

 いけないと思いつつもその紙をめくった。それは、千の端店の3月分の損益計算書だった。いちばん上には売上高、その次が変動費(材料費)、さらに個別固定費として人件費、家賃・管理費、その他費用、減価償却費の数字が並び、最後に店舗利益と書かれていた。

ヒカリはドキドキしながらページをめくった。最後のページに、経営企画室長名義で猪木のコメントが書かれていた。

〈今月で24カ月連続赤字。コスト削減努力が不十分〉

 この店は・赤字・だった。しかも、この2年間ずっと赤字でいっこうに改善していない。そのことで三塚店長は追い詰められていたのだろう。

 そのときだった。廊下から冴子たちの話し声が聞こえてきた。ヒカリはあわてて月次決算書をポケットにねじ込み、トイレに駆け込んだ。