累計42万部突破のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズ最新作、『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』(林總著)が10月5日に発売されました。その刊行を記念して『50円のコスト削減~』のPART3までを特別公開します。主人公のヒカリと会計のプロ安曇教授のコンビが、赤字のファミレスを立て直す物語。第2回はPART1の前半をご紹介します。本連載は毎週月曜日更新予定です。

【前回までのあらすじ】
大手ファミレスチェーンのカッパーズは、ライバルである中堅ファミレスチェーン、ロミーズ千の端店の隣への出店を決めた。カッパーズ創業者で代表取締役会長の山之内宗佑は居並ぶ役員を前に、「ロミーズを乗っ取るんだ。そして、カッパーズを日本一のファミレスにする!」と檄を飛ばす。

東京経営大学 安曇研究室

「君にピッタリの実習先が見つかったよ」

 安曇はゼミ生の菅平ヒカリに告げた。

 安曇は経営コンサルタントをするかたわら、この大学の特任教授として管理会計を教えている。

 安曇ゼミでは、2年生から4年生までの3年間をかけて管理会計を学ぶのだが、1年経ったいま、ヒカリはこのゼミに入ったことを後悔していた。安曇はこの1年間、分厚い管理会計のテキストをゼミ生に読ませるだけで、腕組みして居眠りばかりしていたのだ。

 とはいえ、ヒカリは一度も休まずにゼミに出席して、テキストを読み終えた。真面目に出席したのにはワケがあった。安曇ゼミの目玉である「クラークシップ」に参加するには、このつまらない1年間を耐えぬくことが条件なのだ。

 クラークシップは、3年生の1年間を通じて行われる企業実習プログラムだ。まず2年の終わりの春休みに2週間、それぞれに割り当てられた企業で実際に働いてみて、その企業との相性や適性を見きわめる。よしと判断されたときは、そのまま1年間、アルバイトとしてその企業で働くのである。もちろんアルバイト代は支給される。

 その間、学生はゼミには参加する必要はない。安曇教授に月一度会って、1カ月間の出来事を口頭で報告するだけでいい。ミーティングの場所も一風変わっていて、大学の研究室だけでなく、有名レストランやスイーツの店で行われることもしばしばだ。

 要するに、アルバイトとスイーツつきの雑談を1年間続ければ、最高評価のSがもらえるのだ。しかも、どういうわけか、このクラークシップでSをとった先輩たちは、一流企業の第一線で活躍している。そんなワケで、安曇ゼミの人気は高かった。

 安曇ゼミが「インターンシップ」ではなく、医学系の学校が使う「クラークシップ」と呼ぶのには理由があった。

 クリニカル・クラークシップは、医学部の学生たちが、医療の現場で患者と直接関わりを持ちながら臨床を学ぶ実習方式だ。安曇教授は、生きた管理会計を会社の現場で経験させたいとの思いからこの方式を取り入れた。

 とはいえ、いまだにこのクラークシップは、東京経営大学では正式に認められたわけではない。そこで、安曇個人のネットワークを使って実習先の企業を募っていた。