新型コロナ拡大を機に日本でも急速に広まった「テレワーク」。多くのビジネスパーソンが、WEB会議やチャットツールの使い方など、個別のノウハウには習熟してきているように見えるが、置き去りにされたままなのが「テレワークのマネジメント」手法だ。これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その解決策を示したのが、パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏が執筆した『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。
本来、ひとりの上司が管理できる部下は4人まで
そもそも出社して仕事をしていた頃のように、自分のデスクにいればたくさんの部下の様子が一度に見えるという状況ではなくなったいま、ひとりひとりを個別にフォローしようと思えばこれまでの何倍もの時間がかかります。プレイングマネージャーの場合は、その負担が自分の業務を圧迫するケースも出てくることでしょう。こうした状況を考えると「ひとりの上司が管理する部下の数を減らす」というのは、テレワークを成功させるための必須事項だと思います。
では、実際1人の上司が直接マネジメントできる部下の数は何人かといえば、「4人」までです。自分を入れて5人までというのが、最少チームの人数として現実的なところでしょう。
実際のところ、これまでも5人がベストだったと思うのですが、10人、20人という部下を抱えているケースが多々ありました。対面だからうまくいっていたということではなく、単に上司の側が「うまく管理できている」と思い込んでいた部分が大きいのではないでしょうか。顔を合わせていれば、それでも“阿吽の呼吸”で事なきを得ていたことが、テレワークになるとそうもいきません。
コミュニケーションの分野でも、1人がきちんと関わりをもてる人数は4人までだと言われています。上司にとってだけでなく、すべてのメンバーにとって、きちんと意識できる人数が4人までなのです。実際、職場でも1対1では上下関係が窮屈になり、1対2ではまだ上司の力が強すぎ、1対3あたりから初めてチームとしてのバランスがとれるようになります。
歴史的にも「5人」は最小単位
なぜ5人がベストなのかということについては、少し歴史を振り返ってみましょう。豊臣秀吉は治安維持のために下級武士や農民に「五人組」を組ませました。これは江戸時代にも引き継がれ、戦に応用されています。「5人」というのは、お互いに監視をさせたり、連帯責任を負わせたりするのに丁度よい人数なのです。
軍隊では、最下級の下士官のことを「伍長」といいますが、これも古代中国の『孫子 謀攻篇』などで軍隊の最少単位の人数が5人と書かれていることに由来すると言われています。仮に2人が死傷しても、1人がリーダーとなり、残りの2人が死傷者を担ぐことで陣営まで戻って来ることができるのが5人なのです。もっとも苦しい状況で、リーダーが気を配ることのできる最大の人数が4人まで、という説もあります。
いずれにせよ、いまだに10人、20人という部下を抱えている方は、テレワーク化をきっかけに、ぜひ組織の編成を見直してみてください。