経済学者がロック音楽から学んだ「うまくいくビジネス」の7原則(その2)Photo: Adobe Stock

オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだというの経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽関連のデータ分析と関係者へのインタビューを通じて、経済的な成功や人生における幸福への道を解明した驚異的な一冊だ。
バラク・オバマ元大統領も、以前から「Rockonomics(ロッコノミクス=ロックな経済学)」というコンセプトに強い関心を示しており、「何十年も積み重なってきた経済の問題を解くカギがここにある!」と熱い絶賛コメントを寄せている。
ますます不透明性が高まるいま、「人々を熱狂させる未来」を“先取り”する存在であり続けてきた音楽に目を向けることには大きな意味がある。本書が語る「ロックな経済学の7つのカギ」は、今後のビジネス・人生を構想するうえでも、貴重なヒントになるはずだ。
経済学者の大竹文雄氏(大阪大学)、経営学者の楠木建氏(一橋大学大学院)、さらには「長年ラジオの仕事を通じて音楽業界に関わってきたけれど、あくまで音楽優先のため経済面には疎かった。そんなぼくにとってもこの本の解説はわかりやすく、すごく賢くなった気分です!」と語ったピーター・バラカン氏など、各氏が絶賛する注目の『ROCKONOMICS』とは、いったいどんな内容の本なのか? 本書から特別に一部を抜粋して紹介する。

④ボウイ仮説

 (前回に引き続き、「ロックな経済学7つのカギ」をお送りしています)

※前回の記事はこちら
経済学者がロック音楽から学んだ「うまくいくビジネス」の7原則(その1)
https://diamond.jp/articles/-/273390

 亡くなったデイヴィッド・ボウイがこう語ったことがある。

「音楽そのものは水道とか電気みたいになるよ……年がら年中ツアーして回る覚悟をしといたほうがいい。残ってる本当に独自なものなんて、もうそれ以外なくなってるし

 彼の見方には、録音された音楽以外に独自な売り物が必要なのが色濃く表れている。

 経済学者はそれを補完財と呼んでいる。

 音楽の補完財のリストは長い。ライヴ・パフォーマンス、グッズ、本、音楽ビデオ、ディラン・ブランドやメタリカ・ブランドのウィスキー、ボン・ジョヴィのロゼ・ワイン、クエストラヴのポップコーン調味料、キッスの棺桶なんてのがある。

 成功した会社はボウイ仮説がどれだけ大事かよくわかっている。たとえばアップルは iPhone に iPad、コンピュータを売って利益を上げる一方、そうした機器の売り上げを後押しすべく、アップル・ミュージックを赤字でやっていた。

⑤価格差別は儲かる

 バンドや会社に他には見られない売り物があって、その売り物の転売が制限できるなら、収入や儲けを大きく伸ばすことができる。

 もっと高い値段でも喜んで払う人には高い値段で、もっと安くないとって人には安い値段で売ればいい

 消費者を分類して一部には高い値段で売るやり方を、経済学者は価格差別と呼んでいる。

 航空会社はずっと前からこのやり方を知っている。価格差別は不道徳でも非合法でもない。

 これで考えると、テイラー・スウィフトが新譜を出すとき、まず一番熱心なファンにアルバムを売ってからストリーミング・サービスでの配信を始めるのも筋が通る。

 コンサートで会場を区切って座席の値段に差をつけるのは、ミュージシャンが価格差別を実行し、ファンにそれぞれの払う気に応じたチケット代を課すための方法だ。

 そして複数の製品を一括販売──1曲ずつ売るのでなく、12曲ぐらい入ったアルバムで売る──すれば、らくらく価格差別ができる。

⑥高いコストは命取り

 お金がバンバン入っても、それこそ大儲けできても、まだ成功間違いなしとは言えない。

 成功するバンドや会社は、コストをよく観察して最小化している。賢く投資し、決して投資しすぎない。チャンスがあったら交渉してコストを下げにかかる。

 エマーソン・レイク&パーマーよろしく総勢58人のオーケストラを連れてツアーに出る時代はずいぶん前に終わった。

 キース・エマーソンも言っている

「マネージャーがね、後ろから散弾銃を突きつけて言うんだよ。『いいか、3人で演らないならやめちまえ。お前ら破産だぞ』」

 マクロ経済で見ると、生産性が伸びない業種はコストが上がり、合理化しろという強烈な圧力を受ける。これはボーモルのコスト病と呼ばれる病だ。

 名前はプリンストンの経済学者で、亡くなったウィリアム・ボーモルにちなんでいる。自分の考えを描くために、ボーモルは弦楽四重奏でシューベルトを演るのを例に使った。それにかかる時間と労働は、今も200年前も同じだ。

(本原稿は『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)からの抜粋です)

[著者]アラン・B・クルーガー(Alan B. Krueger)
経済学者(労働経済学)
1960年、アメリカ合衆国ニュージャージー州生まれ。1983年、コーネル大学卒業。1987年、ハーバード大学にて経済学の学位を取得(Ph.D.)。プリンストン大学助教授、米国労働省チーフエコノミスト、米国財務省次官補およびチーフエコノミストを経て、1992年、プリンストン大学教授に就任。2011~2013年には、大統領経済諮問委員会のトップとして、オバマ大統領の経済ブレーンを務めた。受賞歴、著書多数。邦訳された著書に『テロの経済学』(藪下史郎訳、東洋経済新報社)がある。2019年死去。

[訳者]望月 衛(もちづき・まもる)
運用会社勤務。京都大学経済学部卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。CFA、CIIA。訳書に『ブラック・スワン』『まぐれ』『天才数学者、ラスベガスとウォール街を制す』『身銭を切れ』(以上、ダイヤモンド社)、『ヤバい経済学』『Adaptive Markets 適応的市場仮説』(以上、東洋経済新報社)、監訳書に『反脆弱性』(ダイヤモンド社)などがある。