耐え難い苦痛の日々
医療用麻薬を勧められた

「普通の生活を送ることは可能」という医師の言葉を信じ、マサオミさんは前向きに病気と向き合った。処方された薬をきちんと飲み、適度な運動を心がけ、「リウマチに効く」とされる温泉に通い、健康食品も試してみた。

 だが治療効果は上がらず、病状は悪化した。膝が曲がりにくくなり、足裏にも痛みが出るようになったため歩行がつらく、布団から起き上がれなくなり仕事を休んだ。いっそ手足を切り落としてしまいたいと思うほどの痛みが四六時中治まらず、(もうすぐ薬が効いてくれるはずだ)と自分に言い聞かせながら一日一日をなんとかやり過ごす。強い痛み止めも併用していたが効いている気がしない。痛みと闘いながら眠るために、毎夜睡眠薬を使うようになった。

(あと5年で定年なのに、このままでは勤め上げられそうもない。退職したら、夫婦で旅行したり、趣味の民族楽器で演奏会をしたりするつもりだったのに、何もかもおしまいなのかな。こんなに痛いんじゃ、もう死んだほうがましだ。

 いや、待てよ。ここで弱気になっちゃダメだ。世の中にはもっとつらい病気と闘っている人がいる。俺はとりあえず、生命に関わる病状ではないんだから、我慢しないと。だけどつらい。死にたいよ。ダメだな俺は。なんて弱い人間なんだ。生きている価値がない)

 そうして1カ月が過ぎた頃、治療効果が見えないことにいら立ったマサオミさんは主治医に食ってかかった。

「先生、せめて痛みだけでもなんとかしてください。気が狂いそうです」

「今お出ししている薬は効果が見えるまでもう1~2カ月は様子を見たほうがいいんですよ。でも痛みはつらいですよね。モルヒネを使ってみますか」

 そう医者は提案した。

「え、モルヒネですか。どんな薬ですか」

「医療用麻薬とかオピオイドとか呼ばれている鎮痛薬です。がん患者さんの痛み止めにも使われている薬で、とてもよく効きますよ」

「でも、麻薬なんですよね。依存症になったりしませんか」

「大丈夫ですよ、法律で医療用に使用が許可されている麻薬ですから。痛みの治療を目的に適切に使用すればいいんです。楽になりますよ。リウマチの薬の効果が見えるまで、モルヒネで痛みを抑えながら頑張りましょう。主な副作用は、便秘と吐き気ですが、それを軽減させる薬も一緒に出しますからね」