オバマ政権で経済ブレーンを務めた経済学者による『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(アラン・B・クルーガー著、望月衛訳)がついに刊行となった。自身も熱烈なロックファンだというの経済学の重鎮アラン・B・クルーガーが、音楽関連のデータ分析と関係者へのインタビューを通じて、経済的な成功や人生における幸福への道を解明した驚異的な一冊だ。
バラク・オバマ元大統領も、以前から「Rockonomics(ロッコノミクス=ロックな経済学)」というコンセプトに強い関心を示しており、「何十年も積み重なってきた経済の問題を解くカギがここにある!」と熱い絶賛コメントを寄せている。
ますます不透明性が高まるいま、「人々を熱狂させる未来」を“先取り”する存在であり続けてきた音楽に目を向けることで、どんなヒントが得られるのだろうか? 本記事では同書の一部を抜粋して紹介する。
「ニッチな市場で勝つプレーヤーが増える」
という予測は大きく外れた
スーパースターを生み出す音楽の力、すなわち「規模の経済」と「不完全代替性」は、ある特徴によって増幅される。
この特徴は他の産業にもどんどん当てはまるようになってきた。曲やアーティストの人気は直線的にではなく、幾何級数的に高まるのだ。
この特徴は、よく、べき乗則と呼ばれる。トップ・アーティストの人気は2番手の人気の数倍、その2番手の人気は3番手の数倍、以下同様に続く。
科学者はありとあらゆる現象にべき乗則が成り立っているのを発見している。いろんな単語が使われる頻度や都市の大きさ、1年に起きるハリケーンの数なんかもそうだ。
べき乗則を作り出すのに一役買っているのはネットワークである。
人気は友だちや知り合いのネットワークをぐるんぐるん巡り、べき乗則の関係が生まれる。つまり、ひと握りのアーティストが人の関心をほとんど全部かっさらう。
音楽業界では、この法則はコンサートの収入、曲のダウンロード数、シャザムでの検索数、フェイスブックやツイッターでのフォロワー数、アーティストのグッズ売り上げなんかの分布がものすごく偏っているところに現れている。
ベストセラー『ロングテール』〔篠森ゆりこ訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫〕で、当時『ワイヤード』誌の編集者だったクリス・アンダーソンは、彼言うところの売り上げの長い尻尾(ロングテール)の端っこにいる人たちには大きなチャンスが来る、小規模な売り手がニッチな市場を見つけられるようになるからだと予測した。
ところが、音楽業界ではいまだそんなことにはなっていない。
代わりに、分布の真ん中あたりにいた層が音楽から足を洗ってしまった。消費者がどんどんひと握りのスーパースターに流れていっているからだ。
ここ30年で、コンサートの総売上金額のうち、アーティストのトップ1%が持っていく割合は2倍以上になった。
1982年の26%が今日では60%だ。トップ5%ではコンサート全部の売り上げ合計のうち85%だ。
同じパターンが録音された音楽にも当てはまる。長い尻尾は相変わらず長く寂しい。人の動きがあるのはもっぱら尻尾のつけ根のほうだ。