Photo by an_vision on UnsplashPhoto by an_vision on Unsplash

2019年に香港で大規模な抗議活動が起きてから2年がたった。デモがニュースになることはなくなったが、香港の“中国化”は今も静かに進んでいる。中国政府は香港の統制を進めており、香港独自の自由は徐々に失われつつある。6月24日、香港の大衆紙「アップル・デイリー」が最終号を発行し、その歴史に幕を閉じた。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

アップル・デイリーですら
存続できなくなった香港の恐ろしさ

 香港国家安全維持法(以下、国家安全法)が施行されてそろそろ1年になる。施行1周年を記念するかのようにこの6月中旬、香港紙「アップル・デイリー(蘋果日報)」とその親会社であるメディアグループ「壱伝媒」(ネクスト・デジタル)の経営・編集トップ5人が逮捕され、社屋が家宅捜査を受けた。

 続いて資産が凍結され、同社は運営資金難に陥った。当初は6月いっぱいの運営は可能としていたが、残された経営責任者らは、「このまま無理に運営しても職員たちに十分な離職金を払うことができない」と判断。家宅捜査からわずか1週間後にあたる24日、アップル・デイリーは最後の新聞を発行し、26年の歴史を終えた。

 なお、「アップル・デイリー」を海外大手メディアを含めて多くのメディアが「民主派新聞」と形容しているが、同紙の誕生からの経緯を知る筆者は、あくまでも同紙は「民主派に支持されている新聞」というレベルであることを強調しておく。かつて、そしてずっと派手で大げさな表現やタイトルで人々の興味と関心を引き続けるスタイルを得意とした新聞で、リベラルというよりはポピュリズムの権化のような新聞だからだ。加えて、2012年に中国人観光客を「イナゴ」と形容した広告を第一面に掲載したのも「アップル・デイリー」だった。そのときのことを覚えている人たちは、同紙の根底がポピュリズムであったことをしっかりと記憶しており、その評価と「民主」との間に一線を画している。

 しかし、主権返還後に大手メディアが次々にさまざまな手段によって親中派資本に「侵食」され攻略され、香港市民の声とはかけ離れた存在になりつつあることに対して市民の不満が拡大し、ますます「アップル・デイリー」のポピュリズム性肯定に結びついたことも無視できない。実際に学者やメディア関係者の多くが「同紙の報道を100%真に受けることはできない」「読んではいないけれども」と言いつつ、「そのアップル・デイリーですら存続できなくなった香港は恐ろしい」という思いで課金し、支え続けてきた。