お金だけで集まった人たちは会社の資金状態が悪くなれば離れていってしまう。業務をこなすマニュアルだけでなく、苦難に直面した時に自分のことのように共感してくれる仲間がいて、応援してくれる環境が整っていれば、人はそれを乗り越えていける。その結果として退職防止の効果や会社の生産性の向上があるが、それを目的に行うべきものではないということである。
採用辞退ボーナス2000ドルを受け取るか?
どんなにしっかりとオンボーディングを行っても、価値観の違いや違和感から退職してしまう従業員はいるものだ。それは、企業文化や価値観がそもそも合致していなかったため。カルチャーマッチングができていなかったのだ。そうしたミスマッチを避けるためにも、採用前の段階で応募者にいくつかの質問をしておく必要があるという。
・基本的な仕事に対するスタンス
・会社の雰囲気への希望(企業文化にもつながる)
・基本ルールへの希望(働くうえで不満になりがちなもの)
上記の項目ごとに質問をつくり、面談やアンケートで確認をしておく。中途採用の場合は、前職がどうだったかも聞いておくべきだろう。これによって、事前に企業のカルチャーと個人の仕事に対する心情が合致しているかどうかをある程度判断できるという。
ここでアンリ・ジャールは、ある会社の話を始めた。それは、アメリカのラスベガスにある靴の通販会社「Zappos(ザッポス)」である。この会社はカスタマーサービスを大きく評価されており、数々の逸話は、「ザッポスの奇跡」と言われている。あのAmazonが欲しがった企業として、アメリカで知らないビジネスマンはいない。そして、独自の企業文化や制度をつくり上げていることでも注目を浴びている。
その一つが、新入社員研修だ。同社では、採用面接後に4週間の研修が行われている。スケジュールは厳しく、欠席や遅刻は許されない。そして、研修の2週目を迎えた時に提示されるのが、「採用辞退ボーナス2000ドル」である。これは研修を通して価値観や企業文化が自分に合わないと分かっても、お金のために仕事続けようとする人材に、金銭的な援助を行いサポートしつつ違う道へ進んでもらうという施策。オンボーディングをスムーズに進めるには、こうした選抜を行ってカルチャーマッチングを確認することが、何よりも重要ということなのだ。
今回アンリ・ジャールは、これからの社会に必須となる人材育成のプロセス、オンボーディングについて、その基本的な考えと成功させるための秘訣を生徒たちに伝えた。オンボーディングはテクニックではなくプロセスが重要だが、行うために十分なフローを用意しておくことも必要。明確な企業文化をつくり、価値観や企業文化に気づかせるような内容が大切なのだ。そして次回、最終回では、これからの時代の目標設定と働き方について解説する。