エンゲージメントが高まれば、従業員の生産性も上がる

HR業界を中心に広く話題を集めている書籍『エンゲージメントカンパニー』(広瀬元義著)から特別にエッセンスを紹介していく連載第2回です。「アンリ・ジャール」という架空のワイン好き人物が、22人の多様な経営者たちを生徒として講義を行いながら、これからの企業に必要となる人材開発のメソッドを伝えていく。物語形式を中心に進むためとても読みやすく、にもかかわらずこれからの人材開発に必要な考え方が理解できると好評な本書から、今回はビジョンとミッションの重要性を抜粋して紹介します。

大きく後れを取った王子が、
なぜ逆転勝ちできたのか

 ある日の授業のこと、アンリ・ジャールは城の模型を持って22人の生徒たちの周りを歩き始めた。「これから『城づくりレース』という2人の王子の物語を読みます」。周囲の負担を考えずに目先のことだけで行動したアグナイ王子と、労働者への配慮を持って長期的な視野で計画を立てたボーランド王子。この話でアンリ・ジャールが伝えようとしたのはチームワークの価値であり、ビジョンとミッションがどのような重要性を持つかということを学ばせようとしたのだ。

 物語は美しい王女を持つ、国王の指示から始まった。魅力的な2人の王子に求婚された王女はどちらかを選ぶことができず、父であるハロルド国王に相談した。それで王は、王子たちを競わせるために、いくつかの条件のもと、城づくりを命じたのだ。それは、先に城を完成させた王子が王女と結婚できるというレースだった。

 アグナイ王子はスピードを最優先とするために、多くの労働者を低賃金で雇ってすぐさま城づくりに着手。現場は危険な状態のまま、食事や寝床もまともとは言えない環境で進行し、工事は驚異的な早さで行われていった。一方のボーランド王子は、適正な賃金を支払えるだけの労働者を雇い、十分な食事と疲れを癒せる寝床の準備、家族への支援など、環境をしっかりと計画・整備してから工事を始めた。

 夏の終わりが来ると、アグナイ王子の城は半分以上出来上がったのに対して、ボーランド王子はまだまだと、それぞれの工事にかなりの差が出ており、それを見た人々はアグナイ王子の勝利を確信した。ボーランド王子をあざ笑う声まで聞こえていたほどだ。ところが、ここから形勢は一機に逆転していく。

 寒い冬が来ると、アグナイ王子の現場は混乱していった。労働環境はさらに劣悪になり、食べ物はなくなり、事故も多発。労働者は次々に仕事を辞め離れていってしまった。反対に、ボーランド王子の工事は季節にも左右されることなく着々と進み、待遇のよさに感謝する労働者たちが、工事の遅れを気にして自らアイデアを出すようにまでなっていた。

 そして迎えた春。先に城を完成させたのは、スタート時に大きく後れを取っていたボーランド王子だった。目先のことに惑わされることなく、王女と結婚して国を守るというミッションを見失わなかったことが、勝敗を分けたといえるだろう。ミッションを果たすことがゴールへと結びつくということ、そしてミッションには、チームの力が何よりも重要だということを、ボーランド王子はしっかりと理解していたのだ。敗れたアグナイ王子は、先に城をつくるというゴールに囚われすぎ、自ら失敗を招いてしまった。

 この物話は現代の社会を表しているといえる。今後はますますチームの力が必要となり、ボーランド王子のようにゴールとミッションを理解したうえで、労働者を思いやる気持ちと仕組みがないと周りがついてこないということを、アンリ・ジャールは伝えようとしたのだ。