今月に結党100周年を迎え、中国を独裁的に支配する中国共産党。習近平政権発足後は、従来にも増して国内外に強権的な姿勢を強めている。その要因をたどると、現在の共産党中枢を占めるのが、文化大革命時の「紅衛兵」を担った世代であることと無関係ではあるまい。習近平国家主席自身も毛沢東時代への反動とも取れる動きを見せており、それは経済政策にも及ぶ。力への自信を深める習政権の外交戦略は逆に新たな「チャイナリスク」をもたらしている。(東京財団政策研究所主席研究員 柯 隆)
過去の政権と比べても明らかに先進国と対立
中国の主権を強硬に主張した習主席の7・1演説
「中国共産党の100年にわたる奮闘の輝かしい経過を振り返り、中華民族の偉大な復興の明るい未来を展望する」――。中国の習近平国家主席は7月1日、北京の天安門広場で開かれた中国共産党創設100年を記念した祝典で、高らかにこう宣言した。
だが、習主席のこうした認識とは裏腹に、世界主要国は、急速に台頭する中国とどう向き合ったらいいのか、かつてないほど真剣に悩んでいる。米国のバイデン政権は、トランプ前政権の中国政策を基本的に継承しつつも、中国が敵対国ではなく、「もっとも深刻な競争相手」と定義した。
世界主要国は、中国の発展を逆に脅威とみなすようになった。なぜならば、中国は既存の国際ルールに従わないからである。それに対して、中国からみると、既存の国際ルールは先進国が決めたもので、途上国にとって必ずしも公平なものとはいえない。両者の言い分はまったくかみ合わないまま、対立がエスカレートしていった。
習政権発足後の中国の外交姿勢は、それ以前と比べて明らかに硬直的になり、国際社会との対立を強めている。中国語の表現を借りれば、これは「戦狼外交」と呼ばれる。
「戦狼」(Wolf of war)とは、ハリウッド映画「ランボー」を模した、2017年に公開された中国映画のタイトルだ。人民解放軍特殊部隊出身の主人公が、アフリカの某国を舞台に、反政府側のテロリストをやっつける――。興行収入が1000億円超えの大ヒットとなった、中国政府の意向をふんだんに盛り込んだプロパガンダ映画だ。
「戦狼外交」はまさに、各国に派遣された中国の外交官たちが、外国の“反中勢力”と戦うことを意味する。日本では、中国外交部の趙立堅副報道局長が今年4月、東京電力福島第1原子力発電所の汚染水の海洋放出をめぐり、ツイッターで安藤広重の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の背景に原発らしきものを書き込んだパロディー画像をツイッターにアップしたのも、その一例だ。
しかし、日本による原発汚染水放出の影響を心配するならば、外交ルートを通じて交渉ないし抗議すればいいことだが、外交部の報道官がインターネットのSNS上で日本文化の浮世絵を使って揶揄(やゆ)するのは、どう見ても逆効果しかない。
「中国をいじめ、圧迫する外部勢力を許さない。14億人の中国人民の血と肉で築いた鋼鉄の長城にぶつかり、血を流す」「(他国の)先生ヅラした説教は、決して受け入れない」――。7月1日の習主席の演説は、中国国内のナショナリズムに合致するものだろうが、海外から見ると、さらにその上を行く過激なものだった。何よりも、絶対に非を認めない「戦狼外交」は国際社会で反感をかき立て、中国自身を困らせる羽目になる。
そもそもなぜ習政権は、国際社会と対立を強めるのだろうか?
私は、少なくとも二つの背景があると考えている。