三菱ケミカルHDPhoto:123RF

 国内最古の製薬企業であり、日本で最初に「洋薬」の取り扱いを始めた旧田辺製薬の流れを組む田辺三菱製薬が、上場を廃止し三菱ケミカルホールディングスの完全子会社となってから、はや1年半近くが経過した。同社の企業価値向上のためには、三菱ケミHDの全面的な庇護を受ける以外の選択肢が「本取引よりも有効であるとは考えられない」と結論付けての嫁入りであったが、現時点では、それを実証するようなファクトは上がっていない。

 この間、折からの新型コロナウイルス禍を受け、国内外の製薬企業が開発・提供する治療薬や予防ワクチンなどのソリューションに、国民の期待が一気に集まった。「アビガン」や「スクロメクトール」といった昔のクスリまでもが持て囃されるなか、幸か不幸か、田辺三菱はカナダ子会社のメディカゴが開発を進めるタバコ葉由来のワクチン開発プロジェクトが、一部メディアやヘルスケア業界の関係者を中心に関心を集めた程度だった。同じ大阪・道修町を本拠地とする塩野義製薬が浴びることになった眩いスポットライトとは好対照をなした。

 そもそも13年にメディカゴを買収するに至った経緯自体も、近い将来起きるだろうと予想された新型インフルエンザのパンデミック時に、何か役立つかも知れないといった漠とした動機だったように思われる。同社の常として、着眼点は「おもろい」もので、スタート力もなかなかなのだが、中長期の戦略性や妥当性を徹底的に追求した形跡が薄い。

 いまからちょうど20年前、その後の国内の業界大再編の嚆矢となるかも知れなかった田辺製薬と大正製薬の経営統合構想然り、その後、同業他社が次々とカップルをつくっていくなかで「追い込まれた末」の三菱ウェルファーマとの合併然り、医療用医薬品業界では初となるゆるキャラ「たなみん」の制定然り、今夏から始めた上方落語による大阪の街の歴史・商文化紹介の動画配信然り、である。他社には想像が付かない400年の歴史が醸し出すのか、いずれも悪気はないものの、唯我独尊を帯びた姿勢や意識が抑えようにも滲み出てきてしまっている。