あらゆるステークホルダーの利益を考慮する「ステークホルダー資本主義」が、全世界に広がっている。これまで欧米の株主偏重の考え方に違和感を覚えていた日本のビジネスパーソンから聞こえてくるのは、「やはり自分たちが正しかった」「これまで通りでよいのだ」との声だ。しかし、本当にそうであろうか?――というのも現在の日本企業は、こうした指摘とは逆のことが起きている。株主や投資家の存在が、かつてないほど大きくなっているのだ。連載『ザ・グレートリセット!デロイト流「新」経営術』の#9では、その背景を探る。(デロイト トーマツ グループ パートナー 達脇恵子、シニアマネジャー 秋山 造)
日本の株主重視の動きは
世界と矛盾するのか
日本企業が取り組むコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードは、企業と投資家に健全な対話を求めている。導入から5年以上たった今、対話の頻度や質は確実に向上している。株主総会でもさまざまな株主提案が行われるようになった。
従来は、株式の持ち合いを含む「もの言わぬ株主」が多く、投資家のプレッシャーがない中、成長へ向けての積極投資が行われなかった。それが日本経済の低成長の一因になったといわれている。これを是正する株主重視の動きが起きているのだ。
誤解を恐れずにいえば、日本企業はステークホルダー資本主義の「資本主義」の部分を健全化する途上にある。株主の力を借りた資本の効率的な活用に向かっており、ステークホルダー資本主義の「ステークホルダー」の部分を強調する世界とは別次元の動きを見せている。
逆にそこがクリアできると、日本企業はステークホルダーへの価値提供と自社の成長を持続的に実現できる、真の「ステークホルダー資本主義」に近づくことができる。その鍵を握るのが、今回のテーマであるESGだ。