警戒すべき症状② お腹や背中の痛み

 2つ目の症状は「お腹や背中の痛み」です。すい臓は存在する場所から「後腹膜臓器(こうふくまくぞうき)」に分類されます。

 臓器の大半は「腹膜」に覆われていることが多いのですが、すい臓は腹膜より後ろ(背中側)に存在するので、腎臓や尿管とまとめて「後腹膜臓器」と呼ばれています。この後腹膜臓器に異常が生じると、背中に痛みを感じます。

 例えば、尿管結石や腎臓の炎症でも背中の下(腰)のあたりに痛みが出ることが多いです。

 一方、すい臓がんの場合はどうでしょうか。すい臓の内部の「すい管」という通路が詰まり、「急性すい炎」という炎症が起き、背中が痛くなることがあります。お腹や背中が繰り返し痛む場合は病院に行くようにしてください。

警戒すべき症状③ 黄疸(おうだん)

 3つ目の症状は、全身が黄色くなったり、かゆくなったりする「黄疸」です。すい臓がんができると、すい臓を通過する「胆管(たんかん)」という管が封鎖されてしまい、胆管を流れている「胆汁(たんじゅう)」が全身に逆流することがあります。その結果、「黄疸」が引き起こされます。

 未来のあなたを助けるかもしれません。すい臓がんの特徴的な症状はぜひ覚えておいてください。

早期発見プロジェクトが行われている

 早期発見に関して、世界的に証明された方法はないと前述しましたが、実は日本の広島県尾道(おのみち)市で「尾道プロジェクト」というすい臓がんの犠牲者を減らすための研究が進んでいます(※5)

 尾道市の病院がタッグを組んで行っているもので、まず開業医など小さな病院でリスクのある人に「お腹の超音波検査」を行い、その中ですい臓がんの可能性がある人をピックアップして大きな病院へ紹介します。そして大きな病院では、胃カメラを使用してすい臓の組織を採取して診断します。このように効率的にすい臓がんの早期発見をしようというプロジェクトです。

 プロジェクト開始後、3.1%だった生存率が16.2%に上昇するなど、効果が期待できる可能性が示唆されています。ただ、過剰診断のデメリットなどが存在するので全国への導入は慎重に検討したほうがいいでしょう。日本発のプロジェクトの有効性がはっきり証明されることを期待します。

 すい臓がん予防に関して、日常生活でできることはなんでしょうか?

 すい臓がんのリスクとなる要素は「肥満・糖尿病・喫煙・過度な飲酒」です。月並みですが、「肥満や糖尿病をコントロールする」「たばこをやめる」「お酒を飲みすぎない」などが重要になってきます。

 親御さんや身近な人にぜひ教えてあげてください。

【出典】
※1 US Preventive Services Task Force. Screening for Pancreatic Cancer: US Preventive Services Task Force Reaffirmation Recommendatio n Statement.JAMA. 2019 Aug 6;322(5):438 444.
※2 Monitoring of Cancer Incidence in Japan Survival 2009 2011 Report (Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, 2020)
※3 Tomohiro Matsuda,et Population based survival o f cancer patients diagnosed between 1993 and 1999 in Japan: a chronological and international comparative study. Japanese Journal of Clinical Oncology 2011; 41: 40 51
※4 Qiwen Ben,et al.Diabetes mellitus and risk of pancreatic cancer: A meta analysis of cohort studies. Eur J Cancer. 2011 Sep;47(13):1928 37.
※5 花田敬士ほか 膵癌早期診断の最前線. 特集 消化器がん 診断・治療の進歩(2 京府医大誌 2012;121:427 34

(本原稿は、森勇磨著『40歳からの予防医学 医者が教える「病気にならない知識と習慣74」』を編集・抜粋したものです)