(2)ビジュアルが記憶に残り、情報処理しやすい

 ゲームの参加者は緑色のジャージーを着用させられ、支配する側はピンクの防護服のようなものを着ている。最初にタイトル画面でこれを見たときは「緑のジャージーとピンクの防護服か……」と、あか抜けない印象を感じたが、見続けるうちにこれは視聴者の情報処理の負担を減らす仕掛けになっているのではと気づいた。

 これ以外にも、参加者たちが毎回ゲーム会場まで上らされる階段は、けばけばしく見えるほどのカラフルな色使い。ゲームを象徴するのは丸・三角・四角の図形で、これは敵キャラたちのマスクにも使われている。

 子どもは黒や茶色よりも赤や黄色などカラフルな色にひかれやすい傾向があり、これは本能的なものだと言われる。子どもにもわかりやすい強い色使いやシンプルな図形は、大人の記憶にも残りやすい。情報過多であり、次々とコンテンツが消費されていく現代において、記憶に強く残りやすいビジュアルはかなりの強みであるはずだ。ビジュアルは言語の壁を超える。

 配信から間もないにもかかわらず、すでにイラスト化(二次創作)やコスプレ服があることも、ビジュアルのキャッチーさを証明している。今後、緑のジャージーといえばイカゲーム、丸・三角・四角といえばイカゲームといった連想が世界中で行われることは想像に難くない。

 また、ドラマ内で「敵キャラ」たちのほとんどはマスクを着用している。彼らはモブキャラ(主人公以外のその他大勢)であり、視聴者からしても顔の要らない存在だ。狙っているかどうかはわからないが、ここでも情報処理の負担が減らされている。

 人間は自分と異なる人種の顔を見分けづらい傾向があるという。海外の作品で「登場人物の顔が途中まで見分けられなかった」という経験はないだろうか。筆者はある。イカゲームの場合、性別と年齢が近いメインキャラクターは、メガネと髪形でわかりやすく区別がつきやすくなっている。全員が緑のジャージー姿でありながら、1回見ればメインキャラの識別が容易だ。アジア圏以外でのヒットの理由はこういった点にもあるのではないか。