「抗酸化物質で疲れが取れる」は
疲労と老化の混同による間違い

――文献やネット情報では、「疲労を起こすのは活性酸素による酸化ストレス(活性酸素が増え過ぎて、活性酸素の産生と抗酸化防御機能のバランスが崩れること)で、細胞が傷つけられるからである」が定説になっています。

 それは間違いです。以前は、活性酸素によって体がさびつく(細胞が酸化する)と、それに対する免疫反応で炎症性サイトカインが出るというようなこじつけが行われていましたが、生理的疲労の場合、体のどこにも異物は存在せず、免疫反応も起きません。炎症性サイトカインは、疲労因子(リン酸化eIF2α)によって発生します。

――体の中で免疫反応は起きていない。つまり活性酸素は疲労物質ではない、ということですか?

 はい。生理的疲労の仕組みは、体を動かしたときに細胞に負荷がかかる⇒乳酸が肝臓で代謝される⇒そのときに「タンパク質合成因子(eIF2α)」がリン酸化されて疲労の疲労因子(リン酸化eIF2α)になる⇒炎症性サイトカインが作られ、「疲労感」という生体アラームが発する。一方でタンパク質の生成が阻害されることで細胞の機能が低下し、臓器機能の低下や障害が起こる「疲労」状態となる、ということです。

 活性酸素は、リン酸化eIF2αを作る原因の一つですので、疲労の原因の一部ではありますが、体をさびつかせて免疫反応を起こさせるという説明は正しくありません。

 ただし、「病的疲労」においては、免疫機能が関係すると考えられる疲労もあります。そこは分けて考えなければなりません。

――ですが、「タンパク質合成因子(eIF2α)」がリン酸化されるということは即ち、さびつくということになりませんか?

 確かに、リン酸化は活性酸素によっても起きます。そういう意味では、活性酸素は疲労と無関係ではない。しかしながら、体内では体が動けば当然酸化物質が作られる。でも、だからといって、活性酸素が体に悪さをしているわけではない。そもそも、活性酸素が細胞を酸化させる話は「老化のメカニズム」。疲労のメカニズムではありません。

 ましてや、さびついた細胞が抗原になって免疫反応を起こすなんて言い出したら、生理的疲労は自己免疫疾患であるということになってしまいます。