経産省を辞めて小さくなった、と言われないために

竹内 自分で会社をやるのではなく、どこかの会社で雇われるという道は考えなかったのですか?

宇佐美 まったくないわけではありませんでした。震災前に転職活動をしたときは、外資系コンサルティングファームやファンドを回っていました。そうすると反対に、「官庁の仕事って結構やりがいもあるし、楽しかったんだな」と実感したんです。だから、官庁を辞めてまで他の企業で働こうと思わなくなりました。その後、1年半くらい色々なプロジェクトのファンディングマネージャーとして働き続けているうちに、自分がプロジェクトをつくる立場になりたいと考えるようになったんです。

竹内 それは素直な考えですね。サポートする側からプレーヤー側に変わりたいということですね。経産省を辞めて、メディアで古巣の悪口を言ったり恨み事を言ったりするよりは健全ですね。激務の後でも、まだまだ力が残っているんじゃないですか?

宇佐美 辞めた瞬間は本当に疲れていたんですけど、1ヵ月くらいして、このままでいいのかなと思い始めました。

竹内 政治家になる気持ちはないのですか?

宇佐美 官僚機構にいたので、行政に携わりたいという気持ちはあります。ただ、それは自分がビジネスできちんと結果を残してからの話だと思います。仮に経産省に残っていた場合、上手くいけば局長クラスまで出世して、数千億円のフローを操る立場になったかもしれないと考えると、それと同じ数千億円のフローを操る事業を何十年かかけて育ててみたいと思いますね。今は貧乏なので、野望くらいは大きく持たないと。

竹内 その発想はすごいですね。普通は、独立したら、とりあえず食べていくことを考えちゃいますよね。

宇佐美 辞めたときにいろいろと新しい仕事の話を頂いて、驕りかもしれませんが、自分の収入を増やすことは今じゃなくてもできるなと思ったんです。今この年齢でしかできないチャレンジをすべきだと思うと、収入だけを基準に考えるのは虚しく感じました。そこで、しばらくは貧乏して、起業にチャレンジしてみようと。

竹内 そういう感覚はすばらしい。私は、東芝で携わったフラッシュメモリは数兆円産業に成長したけれど、そういう大きな事業に携わることは大きい組織でないとできないから諦めました。だから、将来大きくなることをゼロから立ち上げたいと今は思っています。

宇佐美 今の会社は「トリリオン・クリエイション」という社名なんです。トリリオンというのは「兆」という意味で、何兆円もの産業を新しく創り出す会社にしたいという願望があります。妄想するのは自由ですから(笑)。

竹内 小さい目標だとどうしても発想がチマチマして、下手すると日銭稼ぎになってしまいますからね。お金は無くても、夢は大きくですね。

宇佐美 経産省を辞めて宇佐美は小さくなったよな、と言われないようにコツコツと、時に大胆にとにかく大きな目標に向かってがんばっていきたいと思っています。


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◆宇佐美典也『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』

名門高校から東大、そして経済産業省へ。連日のように浴びせられる官僚批判によって、霞が関を去っていく優秀な官僚があとを絶たない。「三十路の官僚のブログ」で給料を公開して話題騒然の著者が、真実の官僚像を知ってもらうため、そして仕事への意欲を失う若手官僚を増やさないために、等身大の想いで問題提起を行なう。

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