エネルギーとヘルスケアの問題に取り組みたい

竹内 本を読んだ人は、宇佐美さんがこれからどうするかが気になっているんじゃないですか。

宇佐美 実は、最近まで何も決まっていなくて、ようやく人様に言えるような段階になりました。友人が起業した会社を手伝いながら細々とコンサルタントをしていたのですが、その友人が会社を手放すことになったので、これも運命かな、と覚悟を決めてその会社を引き受けることにしました。華麗なる貧乏ベンチャー起業家への転身です(笑)。

将来を語る宇佐美氏の言葉に真剣に耳を傾ける竹内氏

竹内 そもそも進路を決めないで辞める人は経産省にいるのですか?

宇佐美 基本的にはいません。レア中のレアなので、秘書課の方にも心配していただきました。

竹内 友人の会社というのはどんな事業をしていたのですか?

宇佐美 漢方を中心とした薬膳の普及ですね。現在は、調査事業受託会社を営んでいます。

竹内 どんな分野の調査事業をしているのですか?

宇佐美 衰退の激しい地方企業や自治体の戦略策定の支援や、スマートグリッド分野の技術・規制の論点整理ですね。もともと、経済産業省で地方経済政策や半導体やエネルギー分野の国家プロジェクトの立案・マネジメントに携わっていたので、その経験を活かしています。立ち上げたばかりなのであまり偉そうなことは言えませんが、エネルギーとヘルスケアが2大社会問題と思っているので、その2つの分野で課題解決型のビジネスをつくり上げてみたいです。

竹内 ヘルスケアはどんなことをしようとしているのでしょうか?

宇佐美 今は、それこそ漢方の学校に通っている段階で、詳細は何も決まってないんですけど、将来的には漢方医学の考え方をベースにした予防医学のサービスを展開できればな、程度に考えています。漢方って、西洋医学にはない個別化医療の視点がたくさんあって面白いんですよ。

 例えば、個々人の体質に合わせて食べ物を選ぶのは漢方の基本なんですね。この前、冷え性に悩んでいる女性に話を聞いたら、朝食に牛乳とヨーグルト、それに生野菜と果物とパンを食べているという答えが返ってきました。それは、西洋的な栄養バランスの観点では健康なんですが、漢方医学ではそれらの食べ物は体を冷やすとされていて冷え性を悪化させるので、栄養上のバランスが取れていても不健康ってことになるんです。

 こういった感覚は、私のおじいちゃんやおばあちゃんの世代が当たり前の知識として持っていたそうですが、ここ数十年の間に失われてしまって、私たちの世代にとっては新鮮です。漢方医学のような東洋的な知恵を、ITを使って何とか現代に蘇らせたいと思っています。

竹内 エネルギー分野というのは?

宇佐美 エネルギー分野に関しては、実際に動き始めているので詳細はあまり言えないんですが、スマートグリッドやスマートコミュニティと呼ばれる分野の総合的な事業設計から規制上の論点整理まで幅広くコンサルティングを受けています。

 エネルギーのように規制が深く関わる分野では、個別の条文だけではなく、関係する法律全体がどういう考え方でどのような背景のもとでつくられているかという構造を理解しないと、新事業を興すのは困難です。官と民が対話をしながら新しい社会を恊働してつくり上げていくビジネス領域が、今後は拡大すると思うんです。そこでは、自分が官庁で培った力を活かせるんじゃないかと思っています。